研究課題/領域番号 |
15K05841
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
小野 直樹 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (20407224)
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研究分担者 |
渡邊 辰矢 茨城大学, 理学部, 准教授 (10302324)
松本 壮平 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (70358050)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ソーレ効果 / ガス分離 / 水素ガス / MEMS / マイクロデバイス / 物質移動 |
研究実績の概要 |
この研究は温度勾配の印加に伴い物質拡散を生じるソーレ効果を利用し、化学的処理を用いずに混合ガスの成分分離を行う高性能なガス分離デバイスの実現を目指す研究である。平成24年~26年度(萌芽研究)での研究の知見をもとに、平成27年度からは大規模な微細連続構造をもつ新デバイスの試作と数値流体シミュレーションによる解析に取り組んでいる。平成27年度は、まずこの大規模な流体ネットワーク構造の簡略化モデルを解析したところ、可解で理論的に興味深いモデルであると分かり、日本物理学会の英文誌速報や国際応用数理会議等に発表した。また第1次実証デバイスとして、厚み約40μm、幅約100μm、長さ約200μmの六角形の細胞状ガス分離ユニットを幅方向に36列、流れ方向に360段連結したデバイスを試作した。このデバイスを用いて、水素50%と二酸化炭素50%の混合ガスの分離実験を実施したが、ガス分離効果は確認できる結果を得たものの、水素の分離(濃縮)濃度は、入口濃度から0.7%と、理論予測値の1/10以下の値にとどまった。平成28年度は、分離濃度が理論予測値から大きく下回る原因を探索するために全ステンレス製の微細な単ユニットでの基礎デバイスを数種類作成し、分離濃度を測定した(低温面0℃とし、高温面温度は80℃までの印加)。しかし実験の結果、水素の分離(濃縮)濃度は、入口濃度から最大0.13%と、理論予測値の1/7程度であった。但し、この基礎実験から流路高さの大きい流路が比較的良い分離濃度を示した結果などから、現有の加熱冷却方法の不整合性や、デバイスの構造や材質に関して重要な知見を得ることができた。最終年度の平成29年度では、簡易な第2次実証デバイスによる予察実験で改善効果を確認したのち、分離効果の大きな装置を目的に、最終実証デバイスを設計・製作し、その性能を検証する予定である。以上
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究はソーレ効果ガス分離素子の大規模ネットワーク構造による高性能化の理論構築と実験的検証を目的としている。平成27年度には、理論に関しては多数の分離素子を接続した大規模流体ネットワーク構造の簡略化モデルの構築を完了し、数学的な解析を実施した。これにより提案する分離デバイスにおける基本的な濃度分布形成メカニズムが明らかとなり、所定の性能を得るために必要なネットワーク規模などの基本仕様決定の指針を得た。実験的検証では、上記提案構造を有する第1次実証デバイスの試作と、実験による性能評価、およびそれらを支援する数値シミュレーションを実施した。第1次実証デバイスは、理論で予想される濃度分布の発達過程の確認を目的に、分離素子を幅方向に36列・流れ方向に360段連結した構造をMEMS加工技術によって作成した。材料としてはシリコン基板およびガラス基板にそれぞれ微細溝を加工して使用した。実験では水素50%と二酸化炭素50%の混合ガスを用い、混合ガスの流量15~27ml/minの範囲で性能評価を行ったが、水素の分離(濃縮)効果は0.7%と予測値より小さい値であった。平成28年度にはこの原因を探るために、全ステンレス製の装置にて単ユニットのデバイスを作成し、基礎的な実験を実施した。しかし実験の結果、水素の分離(濃縮)濃度は、入口濃度から最大0.13%と、予測値の1/7程度であった。考えられる原因としては、1)デバイス全体の厚みが900μmに対して流路の厚みが100μmと小さく、デバイスの表裏で印加した温度差が流路部分では小さくなる問題、2)材質が金属であるためにガス流路左右の脇の金属部分からの熱の回り込みによって温度差がつきにくくなる問題、3)現有の加熱冷却装置の不整合(加熱冷却のバランス等)、が考えられた。これらの点を考慮して、平成29年度の改良と最終デバイスの製作を進める予定である。以上
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の基礎的な実験の結果から、単ユニットにおいても、水素の分離(濃縮)濃度は、入口濃度から最大0.13%と、予測値の1/7程度であることがわかったので、上述した考えられる原因に対応して、次のような対策案を検討する。1)ステンレス製のデバイスでは、昨年度は強度面を重視して高さ100μmの流路部分の上下に厚いステンレス板を接合して1mm程度までにして変形しにくい厚みにしたが、これをやめて厚みを小さく抑えたデバイスを検討し、強度面に対しては取り付け方法などで対応する。2)ガス流路部分の左右の余白の金属部分を極力少なくしたデバイス構造に変更する。平成28年度でも流路脇の残留金属部分に穴をあけるなどして断熱性を持たせたが、それをさらに強調するなどの方法を検討する。3)加熱冷却装置としてこれまでと異なり、加熱面と冷却面に高熱容量体(金属ブロック等)を付与して温度分布の対称性を向上させ、デバイスに偏りがなく印加温度差が加わるように改善する。以上の案を検討して、改善効果を検証する簡易な第2次実証デバイスを製作して結果を確認する。それを踏まえて、最終実証デバイスを設計・製作して分離濃度の実証実験を実施する予定である。以上
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、基礎的な実験に立ち戻り、研究を進めていたが、期待していたほどの結果を得られることができず、その後の発展的な装置の製作までにはいたらなかった。そのため、若干の残金が生じた。以上
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度の平成29年度は、昨年度の基礎的な実験から得られた重要な知見をもとに、その対策の効果を見る実験、および最終的な実証試験装置の製作を計画している。そのため当初の予算を使い切るものと思っている。以上
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