研究課題/領域番号 |
15K05844
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
稲岡 恭二 同志社大学, 理工学部, 教授 (60243052)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 熱伝達 / 熱交換 / 伝熱促進 / 多孔質体 / アルミ繊維 / 異方性 / 配向 |
研究実績の概要 |
本研究では、金属繊維層の異方性を利用した伝熱促進法を開発する。具体的な目的は、ハタオリ技術を利用してアルミファブリックを製作すること、そしてファブリックを設置した流路の伝熱特性を調査することである。本年度の研究成果は、以下の3点である。 第1に、ハタオリ技術の調査を進め、アルミファブリックの製作を行った。試行錯誤の結果、線径0.16ミリの素線を用い,経糸インチ間密度108本とする長さ2mのアルミファブリックを製作することができた。製作過程において,経糸同42本の試作を行い,素線径,素線強度,紡ぎ方法,機械織り方法をそれぞれ検討し,経糸密度を上げる工夫を行った。今後は,ファブリックを伝熱流路に設置する方法について検討する。また,個体差の小さいファブリックと配向度の制御方法を検討する。 第2に,熱交換実験装置の改良を行った。ファブリック製作上の制約が許される最小寸法を確認しつつ,現有装置のテスト部の大きさを三分の一に変更した。その結果,小さなサンプルでの熱交換実験が可能となった。この装置を用い,熱伝達率測定と圧力損失測定の予備実験を行った。対象要素は,銅繊維層,アルミピンフィン,銅セルメット多孔質体とした。これまでのデータと一致する良好な結果を得ることができ,装置の健全性が確認できた。 第3に,多孔質体の伝熱促進に関する研究動向を調査した。特に,流れのバイパスが圧力損失増加を低減し,かつ伝熱促進を得る上で有効との研究例に注目した。それらを注意深くレビューし,このバイパス効果を予備実験により吟味した。その結果,設置形状の工夫により,圧力損失の低減と伝熱促進の増大を同時達成できる可能性が示唆された。実用展開を考えると,この可能性の調査は極めて重要であるため,設置形状の検討を引き続き実施し,ファブリックに対しても適用して行く考えである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は、以下の3点である。 第1に、アルミファブリックの製作についてはサンプル製作済みで、計画通りである。本研究では、配向度を与える工夫をハタオリ技術により実現する。布地を織る技術は全国に多々ある。しかし、金属繊維を織る技術は極めて限定されることが調査から分かった。また、細く良質なアルミ素線の在処も限定的であった。製作では、従来のアルミ繊維層を参考に、経糸と緯糸の密度を計算し、試行錯誤を重ねた。現在、伝熱実験に向けて、サンプルの流路への設置方法と伝熱面に対する配向方法を検討中である。 第2に、実験装置の改良については、装置の健全性を含め年度内に完了しており、計画通りである。最初の予備実験で、銅繊維層とアルミピンフィンのデータを取得し、流路と断熱部の改善を進めた。続く予備実験では、流れのバイパス効果を計画に加え、銅セルメット多孔質体で検証した。これは、第3の研究動向調査を踏まえた検討であり、多孔質体形状を変えて流れの通路を整え、多孔質体設置時の圧力損失の増大が如何に抑えられるかを調べたものである。調査より、多孔質体形状の工夫次第で伝熱も増加し得ることが分かった。高い圧力損失が本研究の実用化に向けての課題であるため、この新しい可能性は、本研究の成果を発信する上で極めて重要性を持つと考えている。 第3に、世界の研究動向、特にカーボングラファイト多孔質体について調査し、それらをまとめレビューした。多孔質体の流れのバイパス効果について新たな視点が得られ、重要性を認識するに至っている。予備実験でデータを取得した銅セルメット多孔質体について、形状を変えた予備実験を新たに計画しており、流れのバイパスがもたらす伝熱効果について検討する考えである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策は、以下の2点である。 第1に、当初の計画の通り、製作したアルミファブリックを熱交換面に設置する場合の熱交換実験を行う。そして、局所熱伝達率測定と圧力損失測定の結果から、アルミファブリックの伝熱特性を調査する。実験では、配向度が同一のサンプルについて、密度を数種類に変更し、かつ流量をパラメータとして変えて伝熱促進比を調べる。データのばらつきも気になるため、繰り返し慎重に実験を行う。サンプルと伝熱面の接合方法には問題点が生じると想定される。解決に時間を要する可能性もあるので、熱抵抗を減じる対策と工夫を一つずつ施していく。 第2に、多孔質体の全体形状に関する新たな模索実験を行い、その効果を調査する。具体的には、多孔質体に流れのバイパスを作る場合、多孔質体の形状を変えることで流れを整流する場合について、局所熱伝達率測定と圧力損失測定を実施する。これは、研究動向調査の結果を踏まえ、研究方策を変えるものである。調査結果では、多孔質体内部の流れを変えることで、圧力低減効果に加えて、伝熱も増加し得ることが示唆された。本研究の実用化を考えると、多孔質体設置時の圧力損失の急激な増大をどう抑えるかは、極めて重要な意味を持つ。加えて、伝熱がさらに増加する現象を調査することは、多孔質体を利用する熱伝達現象の本質的理解を進める検討にもなる。さらには、本研究の実用化にも寄与すると期待する。したがって、当初計画していた単純な熱交換機構のモデル化検討を変更し、新しい形状変更効果(流れのバイパス効果)の可能性の有無を実験的に突き止めるものとしたい。対象は、予備実験でデータを取得済みの銅セルメット多孔質体とする。なお、形状変更効果(流れのバイパス効果)の優位性を確認し、アルミファブリックについても効果が得られるか、引き続き検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は,予定していた温度データ収録装置の購入を見合わせたことによる.これは予備実験において,これまでのデータとの比較を行う観点から,既存の収録装置を使うことの方が望ましいと判断したため.
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の金額については,本実験を進める段階で,温度データ収録装置の拡充をはかる計画である.
|