研究課題/領域番号 |
15K05864
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
射場 大輔 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 准教授 (10402984)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 制振 / 動吸振器 / 神経振動子 / 位置制御器 |
研究実績の概要 |
動物の歩行運動に関連した神経振動子をアクティブ動吸振器の制御方法に組み込むことで,生物の移動様式を模擬して動吸振器の可動範囲を考慮でき,かつ,構造物のパラメータ変化に対してロバストな制振装置ユニットを開発すること,さらに,開発した複数の制振ユニットの制御器を無線通信で結合し,分散型制振ネットワークシステムを構築することで耐故障性に優れた次世代のアクティブ制振システムを提案し,その基礎的な設計方法や有効性の検証及び発展的な応用を行うことを目的としている.これまでの研究により次の結果を得た. 平成27年度は,神経振動子から出力された動吸振器補助質量の目標変位まで質量を移動させるために位置制御器としてPD制御器を利用しているが,この制御器のゲインを決定する方法について提案を行った.具体的には構造物の振動エネルギーの消散が効率的に行える理想的な経路を設定し,その経路に沿って補助質量が動作するように評価指標を準備し,指標の最大化を行うことでゲインを決定する方法を提案した.この方法によって,従来の設計法と比較して制振性能が大幅に改善された. また,PID制御器の導入も行い,同様の設計法によってゲインの決定し,数値計算によってその制振効果を評価した.PD,PID制御器の制振効果を比較した結果,PD制御器が制振には有用であることが明らかとなった.どちらの制御器を用いても動吸振器補助質量に対してストローク制約を課すことが簡単に行えることも示すことができた. さらに,小型アクティブ動吸振器制振ユニットの開発を目的として,3軸切削加工機とインクジェットヘッドを組み合わせた導電性インク用の印刷機を開発し,アクティブ動吸振器用の電気回路の印刷を試みたところ,歪みセンサに相当する回路の印刷が可能であることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経振動子と位置制御器によって構成されるアクティブ動吸振器制御システムにおいて,通常の位置制御器の設計とは目的が異なり,構造物の制振を目的として位置制御器を設計する方法についてはこれまで検討がなされていなかった.地震入力を受ける構造物が,その固有振動数が励起されて振動していることを考えた場合,主となる振動成分は固有振動数となる.その仮定した動作に対して最大のエネルギー消散の効果を発揮する理想的な補助質量の移動経路と,補助質量の解析的な変位応答を位置制御器のゲインを含めた形式で導出して比較することで,簡便に制御ゲインを計算できることを示すことができた.この手法を用いることで,仮定した条件下でPD・PID制御のゲインを設計が完了し,神経振動子を利用したアクティブ動吸振器システム全体の設計が可能となった.また,開発したシステムはアクティブ動吸振器の問題であった大地震時のストローク制約の問題を解決できる方法であることを示すことができたことから,十分な成果を得られたと言える. また,小型アクティブ動吸振器制振ユニットの開発の一環として製作した3軸印刷機は,簡易なセンサの印刷には成功したが,インクジェットヘッドのノズルが詰まりやすく,印刷した回路の再現性には能力が乏しく,印刷ヘッドの改良が必要であることがわかった.しかしながら,複雑な三次元形状の表面上に直接,回路の印刷が可能となるプリンターは制振システムのみならず,様々なヘルスモニタリングシステムに応用できることが期待できるため,今後も開発を継続していく.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究推進方策として,1.小型アクティブ動吸振器制振ユニットの開発,2.単一制振ユニットによるマルチ振動モード制御法が挙げられる.これらは当初の研究計画に盛り込まれていたものである.ただし,2.の課題は平成29年度の計画に盛り込んでおり,システムのロバスト性能評価に変わって先に実施する.また,当初の計画から振幅位相地図の数学的考察は計画から除外した.これは,元々,動吸振器補助質量に与える目標変位を導出するために必要であった,正弦波入力を受ける神経振動子の定常応答から構成した振幅位相地図をデータベースとして用いることなく,神経振動子の出力から直接,目標変位を導出できるようにシステムを簡略化したためであり,振幅位相地図に対する数学的な考察が現時点では必要なくなったためである. そこで,1の課題に対しては,3軸印刷機の改良から始める.印刷した回路の再現性が乏し原因がインクジェット方式のヘッドを採用したことにあった.また,この方式のヘッドではそのサイズが大きいことから印刷対象物へのアクセスには制限が伴っている.そこで,印刷ヘッドにレーザーを利用し,焦点距離分の変位を保った状態で導電性インクの焼結を行えるようにする.また,2の課題に対しては,現在,構造物の応答を神経振動子に入力し,そこから動吸振器の目標値を導出することで,矩形波状の目標変位が得られているが,この目標変位では,構造物の複数の固有振動数を励起する恐れがあるため,振動子の出力から,定常状態(自励振動)からの入力の影響によって振幅成長分のみを取り出すことができるシステムを提案し,その成長分を補助質量の目標変位として利用する方法を開発する.また,それに伴い,位置制御器のゲイン設計方法を新たに導出する計画である.
|