研究課題/領域番号 |
15K05874
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
森山 裕幸 東海大学, 工学部, 教授 (60200458)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 振動発電 / 圧電素子 / 機械音響連成 / 電気機械連成 |
研究実績の概要 |
今日のエネルギー事情を考慮すれば,省エネルギー技術の進歩は経済発展や地球温暖化の抑制に不可欠な要件であり,様々な分野で取り組まれている.その中でも研究代表者が注目しているのは振動力発電及び音力発電技術であり,両発電共に基本的な方式は振動子に供給される振動エネルギーを圧電素子の圧電効果で電気エネルギーに変換するという単純なものである. 本研究では振動子として薄肉のアルミニウム合金製の円板を用い,まず板表面の中央に貼付した圧電素子を板振動に伴う伸縮により発電させ,その発電特性に注目してきた.この発電量は振動振幅に依存するため円板を固有周波数付近で加振させ,円板の振動特性及び発電特性を理論的に検討し,理論解析の妥当性を実験で検証してきた. このような圧電振動発電の特性改善を目的に,上記円形板を両端に配置した円筒構造(以後単一空洞モデルと略称する)を取り上げた.この場合,加振機から供給される振動エネルギーは円板振動を介し,円筒内部音場及びもう一方の端板に伝播する.しかしこのエネルギー流れは一方向に留まらず,板振動(加振側),内部音場,板振動(非加振側)の3系間を伝播することになり,機械音響連成現象が引き起こされることになる.その結果,単一空洞モデルの振動板面積は,円板モデルに比べて2倍に拡大される.さらに円筒を単一円筒の筒長方向に追加した円筒構造(以後連結円筒モデルと略称する)を示したものであり,上記現象が付加された円筒内部音場と仕切り板及び端板の振動との間でも生じることになる.そのため振動板の面積はさらに拡大され,加振機から供給される振動エネルギーの回収には都合が良い. 発電量は圧電素子に生じる面内ひずみの大きさだけではなく,上記の通りその面積にも依存することになる.発電特性に及ぼす圧電素子面積の影響を検討するため,圧電素子を同一面上に複数設置することで設置面積の拡大を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1枚の圧電素子を中心に貼付したアルミニウム合金製円板を用いた発電実験において,加振機で点加振力を受ける円板では固有周波数が自由振動時に比べて低周波数側へ移行し,発電時の電力を円板に供給されるパワーで除した発電効率はその周波数で最大になる.この場合,板厚を変更させた特性の推移を理論解析,数値解析及び実験で検討し,各板厚における最高発電効率は板厚の増加に伴い減少する. 単一空洞を用い機械音響連成を利用した発電実験では,一方の円板を自由振動時の固有周波数で加振した場合,非加振側の円板における電力が加振側を大きく上回ることになる.また連結空洞を用いた同様の実験では,2つの空洞を仕切っている円板で最大電力を生じることになる.その結果,両タイプの空洞を用いたときの発電効率は,上記円板振動のみの効率に比べてかなり改善されることを明らかにしている.機械音響連成を利用したときの発電効率は円板の板厚と共に増加し,単一空洞では本解析範囲において極大になる板厚が存在すること確認している.一方,連結空洞では効率の増加傾向は維持されるため,上記極大値が生じる板厚以降においては単一空洞との差異は拡大し,連結空洞による改善効果が顕著になることを明らかにしている. 以上は圧電素子を円板中心に1枚貼付した際の成果であるが,複数の圧電素子を貼付した円板のみの発電特性も数値解析と実験で検討している.その結果,数値解析において発電効率は貼付枚数と共に増加するが,一定枚数を超えると減少傾向に転じることを明らかにしている.この発電効率の貼付数に伴う増加傾向は実験的に検証されているが,今のところ測定系が対応できなかったため減少に転じるところまでは確認されていない.
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今後の研究の推進方策 |
前年度は圧電素子を中央に貼付した円板を用い,円板のみによる振動発電及び単一円筒と連結円筒により機械音響連成を利用した振動発電について,発電特性を理論解析,数値解析及び実験から多角的に検討してきた.また円板のみによる圧電振動発電では,圧電素子の貼付数による発電特性の変化を確認した.ただし,これらは円板の固有周波数での加振による成果であるが,実用上このような条件で加振されることは稀である. そこで本年度は実環境を模擬したランダム加振を取り上げるが,円板は2モード以上の固有周波数が混在する加振力を受けると,単一モードの加振に比べて振動振幅が極端に抑制されることを理論解析から明らかにしている.そのため単一周波数とランダムな周波数成分の中間的な状況にある複数の固有振動モードを有する加振を取り上げ,それぞれのモード成分の大きさやモード間の位相差をパラメータに,振動振幅が抑制される状況を把握する. 上記知見に基づき,単一円筒と連結円筒による機械音響連成を利用した圧電振動発電において,一方の端板に回収すべき振動エネルギーを複数の固有モードで構成された周波数成分での加振及びランダム加振で供給し,他方の端板には機械音響連成を励起するための単一周波数による加振力(制御力)を負荷する.この制御力によるエネルギー回収を,制御力を基準とした効率等で検討する. 当該年度に実施した圧電素子の複数貼付した際の発電特性の検討では,数値解析結果を実験により検証することができなかった.そのためこの課題については,まず数値解析モデル対応した実験を実施して数値解析結果の妥当性を証明する.その後,時間が許されるのであれば,機械音響連成を利用することによる発電特性の改善効果を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては,微小電力を測定するためのデジタルマルチメータと数値解析用のコンピュータを物品費から購入した.本来,微小電力を正確に測定するためには,電圧と電流を同時に測定するため,デジタルマルチメータが2台必要である.しかし当該年度の予算内で2台購入することが難しく,電圧測定は現有設備で行うことにしたため1台のみの購入に止めた.その結果,上記の差引額が生じることになった.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にはデジタルマルチメータをもう1台購入し,当該年度にできなかった微小電力の精密な測定を行う.また次年度予定している複数の固有モードで構成された周波数成分の発電実験を行うため,任意波形を生成することができるマルチファンクッションジェネレータの購入も予定している.
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