現在我が国の理学療法士数は,約8万人であり,その絶対数は増加傾向にあるものの,理学療法士自身の技能向上は依然として大きな課題である。本研究では,食事や着替えなどの日常動作に不可欠な手首の動作に着目し,このリハビリ動作を行う理学療法士の技能向上を支援する手首リハビリ患者シミュレータの開発を目的としている。具体的には空気式パラレルマニピュレータに手首モデルを装着し,機械インピーダンス制御を実装することで,拘縮などの疾患状態を有する患者手首の物理モデルを再現する。このような高機能型患者シミュレータを通してP.T.個人の技能向上,ならびに熟練P.T.のノウハウを若手P.T.へと伝承する教育の場を提供することを目的としている。 本研究では手首モデルの機械特性を如何に実際の患者のそれに近づけるかが重要な課題である。これを解決するために,インピーダンスパラメータを容易に調整できるようにジョイスティックを用いたインターフェースを開発し上腕部に組み込んだ。これにより理学療法士自身が,手首モデルからの反力を感じながら,自身の経験に基づき自分でパラメータを調整する仕組みを提案した。当初は弾性特性のみの調整であったが,粘弾性特性も多自由度方向に任意に設定できることを実験的に確認した。 最終年度は,熟練理学療法士の技量を新人療法士に伝承する手法について検討した。手首リハビリテーションでは手首関節の回転3軸方向に同時にトルクを作用させながら徒手動作を行っている。この多自由度方向のトルクを可視化するためにAR技術を導入した。具体的にはあらかじめ熟練療法士が印加したトルクと新人療法士が印加したトルクをモーメントベクトルとしてモニター上に描画することで,力のかけ具合の差を視覚的に把握かつ修正できるシステムを構築した。
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