研究課題/領域番号 |
15K05924
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斎藤 浩海 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10202079)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電力システム / 周波数制御 / 負荷制御 / 強化学習 |
研究実績の概要 |
再生可能エネルギー電源の連系量増加に伴い、電力システムの周波数変動が増大し、既存の調整用火力電源だけでは、周波数変動を抑制することが困難になってきている。そのため周波数変動の抑制に有効に機能する負荷消費電力の調節方法の開発が望まれている。 本研究の目的は、地理的に広範囲に散らばった多数の小さな負荷機器が、自律分散システムの自律個のように電力システム全体の需給平衡状態を周波数変化から把握して、自身の消費電力を調節する超分散自律負荷制御の論理を考案することである。 この目的を達成するため平成27年度は、消費電力を連続的に調節できる負荷機器としてヒートポンプ空調機(以下、HPと呼ぶ)を取り上げ、その消費電力の制御指令値を強化学習法の代表的な方法であるQ学習を応用して決定する方法を考案した。考案方法では、電力システムの周波数変化を計測し、その計測値に基づいて電力システムの状態とHP制御器の報酬を定義して、ε-グリィディ法によりHPの消費電力変更量を決定する。考案方法を小規模電力システムのモデルに適用し、計算機シミュレーションにより検討した結果、HP制御器は、時間が経過するにしたがって電力システムの周波数変動を抑制するようにHP消費電力の変更量を決定できるようになり、HP制御器による学習が適切に行われることが確認された。またHPによる室温制御と周波数変動抑制のための消費電力調節の競合についても、基本的な検討を行った。 超分散自律負荷制御を検討するための電力システムモデルの作成については、電力システムの総需要の大きさに合わせて、システム全体の慣性や周波数制御系のパラメータを変更し、より現実の電力システムの特性を反映できるモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、スイッチの入り切り等で消費電力を離散的に変更する負荷機器を対象にした制御法の考案に、セルオートマトンの応用を検討する予定であった。しかし当初の予想に反して、強化学習法を応用した制御法の開発に時間がかかり、セルオートマトンの応用にまで至らなかった。しかし、平成28年度に予定していた負荷機器の利便性と負荷制御の協調の検討については、ヒートポンプ空調機の温度制御パラメータと周波数変動抑制効果の関係を数値シミュレーションにより分析しており、部分的に先行して研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は次の内容について研究を進める予定である。 まず平成27年度に着手できなかった消費電力を離散的にしか変更できない負荷機器の制御法について、オートマトンを応用した方法を考案する。 次に、負荷機器の利便性が負荷制御により損なわれるときの人間の負荷機器操作をモデル化し、そのモデルを平成27年度に開発した超分散自律負荷制御の論理に組み込んで、負荷機器の利便性と負荷制御を協調させた制御論理を考案する。人間の負荷機器操作のモデル化は、関連する文献を調査するとともに、研究代表者が行っているGeoHP空調機負荷制御の実験環境を利用した実験により行う予定である。実験では、被験者に負荷制御の実施を知らせずに室内に居てもらい、被験者が不快と感じたら室内温度の設定を変更してもらう。その際、室内設定温度の変更値と変更時刻および空調機の消費電力変化を計測する。このような実験を多くの被験者を対象に、冬季の暖房時と夏季の冷房時に実施してデータを収集し、そのデータに主成分分析法やシステム同定法を応用して、人間の負荷機器操作の数学モデルを作成する。 最終的に、人間の負荷機器操作モデルを組み込んだ超分散自律負荷制御の論理の有効性と問題点を、個々の需要家レベルまで模擬した実規模電力システムモデルの大規模計算機シミュレーションにより明らかにする。また、自律分散システムの特徴である耐故障性や信頼性などについても検証してみる。実規模電力システムモデルは、平成27年度に作成した電力システムモデルに、配電用変電所から低圧側の配電ネットワークのモデルと需要家(200万~400万軒)のヒートポンプ空調機・給湯器や電気自動車のモデルを加えることにより作成する。
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