研究課題/領域番号 |
15K05926
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
神谷 淳 山形大学, 大学院理工学研究科, 教授 (00224668)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高温超伝導体 / 遮蔽電流密度解析 / Krylov空間法 / Newton法 / 階層行列 / QR分解 |
研究実績の概要 |
近年,マグネットや電力ケーブル等の様々な電力応用機器用に大面積をもつ高温超伝導(HTS) 薄膜が製造されている.HTS 薄膜の特性はクラックにより著しく劣化するため,非破壊クラック検出法は大型HTS 薄膜の製造過程において不可欠である.この理由から,HTS薄膜内の非破壊クラック検出法が望まれてきた.服部等はHTS 薄膜の臨界電流密度を測定するための走査型永久磁石法(SPM)を開発し,さらに,同法がHTS 薄膜内のクラック検出に応用できることも示唆した.しかし,クラック検出法としてのSPM の性能は十分に調べられた訳ではない. 他方,クラック検出シミュレーションには遮蔽電流密度の計算が必要不可欠であり,それ故,遮蔽電流密度の時間発展を解析する数値計算法がこれまで電流ベクトルポテンシャル法を用いて開発されてきた.遮蔽電流密度の初期値・境界値問題を時間に関して離散化すると,同問題は各時間ステップにおける非線形境界値問題に帰着する.しかしながら,Newton 法を用いた場合でも,この非線形問題の解法には膨大な計算時間を要する.これはNewton 法の各反復において拘束条件付き連立1次方程式を解くことに起因する.上記手法を仮想電圧法と呼ぶ.著者等は連立1次方程式の解法にGMRES を適用すれば,各時間ステップにおける仮想電圧法の計算量がO(n**2) 程度まで低減できることを示した.しかしながら,数百万自由度をもつ大規模問題に仮想電圧法を適用するには,さらなる高速化が必要である. 本研究では,クラック付きHTS 薄膜中での遮蔽電流密度解析を加速するため,H-行列法による高速行列ベクトル積とQR 分解による変数低減という2つの手法を提案した.さらに,両手法の性能を数値的に評価し,両法の応用として,HTS 薄膜内の複数クラックの検出可能性を数値的に検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初,平成28年度計画は次のようになっていた.第1段階として,多薄層近似を実装した3次元シミュレーション・コードを開発し,前年度に開発された薄層近似による2次元数値シミュレーション・コードの結果と比較検討する.さらに,開発された3次元遮蔽電流密度シミュレーション・コードを並列分散処理環境に実装し,高速・高精度解析を実現する.第2段階として,磁場の3次元分布の可視化・アニメーション化プログラムを開発するため,磁気微分方程式の初期値問題を解くプログラムを開発する.また,磁気遮蔽メカニズムを調べるための一助として,解析結果の可視化プログラムも開発する. 現在までに,第1段階は既に終了し,核融合科学研究所・LHD数値解析サーバ上で遮蔽電流密度用並列分散処理シミュレーション・コードが開発済みである.また,第2段階も終了し,開発された磁力線可視化プログラムは走査型永久磁石法によるクラック同定に応用され,磁場と遮蔽電流密度の時間発展をアニメーション化することに成功している. 当初の計画では,高速多重極法による遮蔽電流密度シミュレーション・コードの開発を予定していたが,同法よりも汎用性の高い階層行列法をシミュレーション・コードに実装する手法を,昨年度,開発した.加えて,クラック付きHTS薄膜内遮蔽電流密度解析では,拘束条件付き連立1次方程式の求解が律速段階となっていた.この問題を解決するため,本年度,QR分解に基づく変数低減法を開発した.その結果,クラック付きHTS薄膜内遮蔽電流密度解析に要するCPU時間は著しく減少し,さらなる高速化を実現した.この意味では,本研究は当初計画と比べて飛躍的に進展したと言える.
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今後の研究の推進方策 |
3次元遮蔽電流密度シミュレーション・コードは高温超伝導体の遮蔽電流密度が支配的な役割を演じる工学的応用分野の解析に適用できる.それ故,今後は,①磁気遮蔽性能解析,②磁気浮上システムにおける動的電磁力解析,③交流損失解析,④臨界電流密度の非接触測定法の数値的検討,の4テーマに対して,数値シミュレーション・コードを応用してゆく. ①では,並列版3次元コードを用いて超伝導磁気遮蔽装置の性能解析を行い,磁気遮蔽装置の設計指針を導く.②では,永久磁石の力学的振動と遮蔽電流密度の時間変化とを数値的に追随することにより,動的電磁力の過渡的な応答を解析する.③では,超伝導体に交流磁場を印加した場合に生じるエネルギー損失を解析する.高温超伝導体の臨界電流密度を非接触・非破壊で測定する手法として,近年,誘導法と永久磁石法が注目を集めている.④では,両手法の正当性を数値シミュレーションで実証してみる.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,PCクラスターを構成する2台のパソコンに対して,マザーボード,CPU等の構成部品を更新した.その際,他のPCの構成部品の更新を見送ったため,次年度への繰越額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
大田(韓国)で開催される国際会議COMPUMAG2017への出張旅費に充当する.
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