研究課題/領域番号 |
15K05927
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
柳平 丈志 茨城大学, 工学部, 教授 (10323213)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 浄水処理 / 排水処理 / パルスパワー |
研究実績の概要 |
水中に含まれる有害物質を無害化するための分解処理装置について研究している。 生活排水や工業排水を通して様々な化学物質が排出されている。排水の多くは下水処理または排水処理施設等を経由しているが、ここで十分に分解・除去できないものは自然環境に放出されることになる。その中でも内分泌攪乱作用がある化学物質(環境ホルモン)による環境汚染が明らかになり、長期的にみた自然生態系への影響が懸念されている。一方、上水道についても原水の河川水には様々な化学物質が含まれているが、その一部は従来の浄水処理やオゾンを用いた高度浄水処理で十分に除去できないことが知られている。 これらに対応する新しい技術として、OH(ヒドロキシル)ラジカルの適用が期待されている。OHラジカルをエネルギー効率良く発生させる手段としては瞬間的なストリーマ放電が最も有力であるが、メガワット級の瞬時電力を扱うことになるので実用化には総合的なエネルギー効率の面で大きな課題がある。そこで本研究では、省エネルギーな処理の実現に向けて、効率の高い電源回路方式の開発を第一の目的としている。 今期はまず小規模な実験機の動作を検証し、次年度以降に実用レベルの電源に拡張するための方策および省エネルギー化するための回路方式について検討した。また、実際にメチレンブルー色素の分解処理を試み、エネルギー効率を算出した。この実験により処理能力向上のための指針が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今期はメガワット級のパルス電源装置を実現する上で重要な下記の点について検討し、成果が得られた。 まず、電力を伝送する系の寸法が制限されている場合において、出力電圧や電圧の立ち上がり時間が何によって制約されるのかを明らかにした。特にパルストランスの漏れインダクタンスが大きな要因であることが明らかになり、パルス出力特性を理論的に予測することが可能になった。このパルストランスでは巻線構造の違いによる漏れインダクタンスについて調べた。特に容量性負荷に対して早い立ち上がりを実現するために、パルストランスの漏れインダクタンスを小さくする条件について調べ、1次巻線のターン数や巻線回路構成などによるパルス特性の違いを予測し、試作機でこれを実証した。 一方、高出力の電源とするために多数の半導体素子を同時運転する必要がある。素子の並列部の電流分担のためには伝送線路トランスを使用するが、仮に負荷の開放・短絡などにより耐圧を超えるような予期せぬ電圧が素子に加わり、一部の素子がアバランシェ状態になった場合の電流分担状況についてもあらかじめ検討しておく必要がある。予測および実験の結果、素子がアバランシェ状態になった際にも伝送線路トランスは電流均衡化の作用を失わないことが明らかになった。 これらを踏まえて、SiC-MOSFETを 8 並列した 500 kWクラスのモジュールを試作した。抵抗負荷では出力電圧は理論値と一致した。容量性負荷の場合、トランスのコアの飽和の関係上、電圧が最大振幅に達するよりも前にやむを得ずMOSFETのゲートをオフしたため理論値よりも低い電圧となった。設計上の最大定格出力は 700 kWであるが、負荷に定格出力の90 %に相当する14 kV、44 A を安定して 2 kHz で繰り返し供給することが出来た。 以上により、メガワット級の実用的な電源の実現へ道筋がついたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在実装している静電エネルギー回生方式(CLC方式)では、回収用コンデンサの値を負荷の静電容量に応じて再調整する必要があり、総合的なエネルギー効率を向上するうえで支障になっている。そこで、回収用コンデンサの値によらない新しい回路方式(CLLC方式)を考案し、シミュレーション上で動作を検討した。次年度は実機で評価したい。 メチレンブルー色素の分解処理では本年度 2 g/kWh 程度の値を得ているが、流速増加・パルス幅短縮・放電電極への負電圧印加によりさらに効率の向上が見込める。このための処理装置について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
回路方式(静電エネルギーを回生する方式)について理論的に再検討した結果、新しい方式(CLLC方式)を考案するに至った。この過程で、当初予定していた一部の試作を取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
まず小規模な装置を試作して新しい回路方式(CLLC方式)の動作を十分に検証したうえで、電力容量の大規模化を図りたい。この試作および大規模化のために、次年度使用額と翌年度分の助成金を合わせて支出したい。
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