研究課題/領域番号 |
15K05934
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
横倉 勇希 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70622364)
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研究分担者 |
大石 潔 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40185187)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モーションコントロール / 実世界ハプティクス / ダイオードクランプリニア増幅器 / 外乱オブザーバ |
研究実績の概要 |
現在の科学技術ではマイク,スピーカ,カメラやモニタ等の音響映像機器の発達により,あらゆる環境の視聴覚情報の保存と再生が可能となっている。しかしながら,未だ方今の科学技術では触覚情報については扱え切れていないのが現状であり,様々な物体の触覚情報の保存と再現は,対象物体の複雑さに加え,アクチュエータ制御システムの制御性能が課題となり,困難を極める。そこで本研究では,まず,従来手法では不可能であった環境剛性が複雑に変化する非線形環境の保存と再現を,物理モデルに基づく新しい触覚解析・制御アルゴリズムによって実現する。次に,ダイオードクランプリニア増幅器を用いた広帯域電流制御系と広帯域外乱オブザーバを適用し,さらに制御器設計手法を確立することで,従来手法において問題となっている力制御系の制御性能を大幅に向上する。提案技術に基づいて産業・医療分野において有用な高臨場感感触シミュレータを開発することが本研究開発の目的である。 これまでの研究により,対象物体の剛性が位置に従って複雑に変化する問題,および力制御系の制御性能の問題により正確な触覚の保存と再現が困難になることが明らかとなっている。本研究では,前者を課題1,後者を課題2とし,これらの課題の解決に力を注ぐことで,最終的に任意物体の感触の再現性の向上を目指す。課題1に対しては,非線形バネ特性を考慮した感触保存・再現アルゴリズムの開発によって解決を図る。一方の課題2に対しては,表面磁石形同期モータの駆動用に低雑音・高精度・高効率なダイオードクランプリニア増幅器を開発し,高速な電流制御および広帯域外乱オブザーバを実装することで広帯域力制御を達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度においては,課題1の「対象物体の剛性が位置に従って複雑に変化する問題」に対して,物体の位置と力の関係を取得するアルゴリズムの理論面での検討およびシミュレーションと実機実験による検証を行った。多自由度アクチュエータの場合での離散周波数変換(DFT)を利用した剛性力と粘性力の分離手法についても検討を行い,制御ソフトウェアの開発も実施した。また,永久磁石形同期モータを用いた試作実験装置の設計が完了しており,モーションコントロールが可能であることを検証している。開発しているアクチュエータシステムに,力制御系を内部ループに持つ運動量制御系を実装することで,微分演算に起因する雑音を抑制し,正確な触覚情報をオペレータに呈示することが可能となる。これと平行して課題2の「力制御系の制御性能の問題により正確な触覚の保存と再現」については,ダイオードクランプリニア増幅器の開発と実機実験の評価を行った。従来のダイオードリニア増幅器ではn型とp型のMOSFETが必要となり,設計の困難さと増幅器性能の低下が問題となっていたが,提案手法ではn型MOSFETのみで増幅器を構成できるため設計が容易となり性能も向上する。広帯域な外乱推定が可能となる状態オブザーバの理論解析,シミュレーションも行われた。さらに,複雑に変化する環境剛性を考慮した力制御系の理論解析と制御手法の検証を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の課題1「対象物体の剛性が位置に従って複雑に変化する問題」に関する推進方策としては,当初の予定通り,剛性力と粘性力の分離手法の実機実験と評価を実施する。また,「力の生データ」を活用する物理モデル同定をしない触覚感覚の保存アルゴリズムの理論解析,シミュレーション,制御ソフトウェアの開発,実機実験と評価を行い,各々の提案手法の有効性を明らかにする予定である。さらに,運動量制御系の妥当性を実験により検証し,次年度後半においてこれらの統合実験を実施することにより,非線形バネ特性を考慮した触覚情報の保存と再現の実現性を確認する。一方で,次年度の課題2「力制御系の制御性能の問題により正確な触覚の保存と再現」においては,低雑音・高精細・高効率なダイオードクランプリニア増幅器の開発が完了しているため,今後,実際に永久磁石同期モータを駆動する予定である。従来の交流サーボモータの駆動に用いられるパルス幅変調(PWM)インバータに比べ,スイッチングノイズが抑制でき,力制御系の制御性能が向上し,結果的に繊細な触覚情報の保存と再現が可能となることを確認する。加えて従来のリニアアンプよりも高い電力効率を達成できることも検証する。次年度以降では,ダイオードクランプリニア増幅器の評価と広帯域な外乱オブザーバの力推定の単体実験をそれぞれ遂行し,有用性を検証する。対象物体の剛性変動を考慮した安定性解析も行われ,開発したソフトウェアとハードウェアを統合し,広帯域力制御系の実機検証を完了させる予定である。
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