高周波誘導加熱システムに応用できる時分割インバータとして,ゼロ電流ソフトスイッチング(ZCS)電流形インバータを新たに開発した。本高周波インバータの開発における新たな取組として,ゼロ電流ソフトスイッチングのための補助インダクタを除去し,かつ高周波マッチングトランス巻線を多巻線化することに成功した。これにより,装置サイズや重量に大きく作用する磁気部品の小型化が可能となり,金属熱処理装置の省エネ化やラニングコスト低減など実用的に優れた効果が期待出来る。 まず,多巻線トランスの磁気回路について検討し,多相間インバータで相互誘導と漏れ磁束を抑制した巻線手法を検討した。これについて,シミュレーション解析を中心に検討を行い,E形磁性コアの外側脚に巻線を施し中央脚は磁束を通す構造とした。次に,各インバータの漏れ磁束を利用したZCS動作について,シミュレーションによりその効果を明らかにした。 提案時分割高周波インバータの1kW定格の試作器を作成し,実験により以下の特徴を明らかにした:1)50kHz高周波スイッチングに対して,時分割の原理に基づき100kHzの高周波生成が可能となりパワー半導体スイッチのスイッチング損失およびその駆動電力の低減を達成した。2)多巻線トランスの採用により,高周波マッチングトランスの個数を低減した。3)鉄損の増加については,全損失割合で3%程度に抑制しており,多巻線構造による鉄損の大幅な増加を阻止可能である。4)電力制御手段として前段部の直流電圧振幅制御(PAM制御)を基本とし,最高効率80%程度を確認した。なお,電流サージ現象の発生などを考慮し,パワー半導体スイッチの耐圧はディレーティングしており,その分の定常損失は増えるため,90%強の効率の達成は,まだ至っていない。今後,炭化ケイ素(SiC)などのワイドバンドギャップパワーデバイスの適用により効率改善を予想する。
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