平成29年度の研究の目的は,これまで2年間にわたり検討を行ってきた,電動車両(電気自動車,鉄道,無人搬送車,などのモータを用いて走行する車両)において各種の駆動条件(時間,速度,移動距離,など)を満足しつつ,省エネルギーかつ運搬物や乗員に過度なジャーク(速度の二階微分)がかからない最適な軌道(速度,移動距離,モータトルク,などの時間波形)による駆動を実現するにあたり,車輪にスリップが生じた場合にも駆動条件を満たす走行が可能となるように,スリップ率をフィードバックしてトルクを操作するスリップ抑制法を検討することにある。 スリップ抑制法については,規範モデルに追従させる方法,スリップ率に基づきトルクを減少させる方法,電動機の逆起電力によりトルクを垂下させる方法など様々な手法が提案されている。スリップ率に基づきトルクを減少させる方法では,スリップ率の上限を設定することでこの上限値以下にスリップを抑制できる反面,停止から動き出す際やスリップ急変時にトルクの過度な抑制が働く場合があった。電動機の逆起電力を用いる方法では電動機の逆システムを用いることから,ステップ状など急峻なスロットル操作に対して過大な入力となる場合があった。本研究では,スリップ率に応じたトルク制御と電動機の逆起電力特性を組み合わせることにより,発進時や急加速時などの急峻なスロットル操作に対してスリップの発生を抑制し,速やかにスリップ率を低下させる方法について検討を行った。これらの方法では,路面摩擦特性を用いていないため路面の状態に左右されない方法である。一方,路面の状態をスリップ抑制に用いることによるより緻密な抑制制御の可能性について検討するため,カルマンフィルタを用いた路面摩擦推定値をトルク制御のゲイン設計に用いたスリップ抑制法についても検討を行った。
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