研究課題/領域番号 |
15K05971
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
井田 徹哉 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (80344026)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / パルス着磁 / 波形制御 / 超伝導バルク磁石 / 発電機 / モータ / 捕捉磁場 |
研究実績の概要 |
高温超伝導バルク磁石は高い磁束密度を実現し、17.6Tもの強磁場を捕捉したという報告もある。そのため、高温超伝導バルク磁石を利用したモータや発電機は、永久磁石を用いる既存の製品と比べて飛躍的な出力増加と高効率化、小型化を実現可能であり、将来の産業用電磁機器における低炭素・省エネルギー化に大きく寄与する。一方、LCR過渡応答によって高温超伝導バルク磁石へ実用的なパルス着磁を行うと、急峻な立ち上がりと強磁場による磁束の振る舞いが局所的な温度上昇を促し、捕捉磁束密度の大幅な減少と磁場分布の乱れを生じる。 本研究では試料として直径45mm、高さ19mmのGd-Ba-Cu-Oバルク磁石(QMG, NSSMC)を用いた。従来からのLCR過渡応答に従うパルス着磁では77Kで最大1T程度までしか磁束を捕捉できず、これは最大捕捉磁束密度の60%弱に過ぎない。そこでバルク磁石表面に設けたホール素子で測定した侵入磁束密度を着磁中にフィードバックすることでパルス磁場を制御した。臨界条件を上回る程度の磁束密度をフィードバック制御の目標値に設定し、フラックスジャンプを制御したところ、高温超伝導バルク磁石の捕捉磁束密度が向上した。LCR過渡応答では最も捕捉磁束密度の高い着磁において2~3kJのエネルギーをバルクが受け止めていた。一方、フィードバックを併用した波形制御パルス着磁においては、15kJにおいて最も大きな磁束密度を達成しており、5倍以上のエネルギーを熱に変えること無く高温超伝導バルク磁石に捕捉させ磁場として利用可能にすることができた。 高温超伝導バルク磁石の安定な冷却と測定温度の信頼性に欠けていたため、センサの取り付け箇所及び方法を見直し、パルス着磁用治具を再製作することで、28年度はその改善を行った。また、捕捉磁場の評価に用いるホール素子の駆動回路について見直し、また強磁場での校正を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は平成29年4月に東京海洋大学に開設された海洋資源環境学部へ採用となり、平成28年4月に所属が変わると共に、本研究の遂行に必要な試料、実験装置及び工具等を東京海洋大学へ移管した。異動から新学部開設まで1年の間があり、実験室が確保できなかったことは平成28年度の実験実施の障害となった。そこで当該年度は研究実施行程を組み替え、技術的に実施可能な低温冷却と温度測定精度の向上などを行い、30K以下までの安定な冷却と、温度測定を可能とした。次いで、パルス磁場のフィードバック制御の際に磁場を適切に捉えるためのセンサ並びにセンサ駆動回路について、検討と試験を繰り返して改善を図った。パルス着磁実験の結果から、本研究課題で取り組んでいる波形制御パルス着磁法が従来のパルス着磁と比べて5倍以上大きなエネルギーをバルク磁石へ与え、それを電磁機器へ利用できることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
高温超伝導海潮流発電機での安定動作を目指している30~40K域で高温超伝導バルク磁石を冷却し、侵入磁場フィードバックを制御入力とした波形制御パルス着磁を行い、低温域での捕捉磁場特性の向上を目指す。3~4T程度と77Kの場合と比べて高い磁束密度が見込まれ、マイスナー効果を打ち破ってピン止めを行うための条件が77Kの場合と大きく異なる恐れがあるため、装置の破損を避けつつ条件出しを慎重に行う。また、開発中の磁場センサを組み込み、侵入磁束の時系列変化について高精度に捉えてパルス着磁の様態について明らかにする。超伝導モータ/発電機の実用化に関して、本研究課題の成果が重要性を増してきているため、実験データを元にしてその適用可能性についても考察を行う。 実験室の整備については未だ半ばであるが、可能な限り本研究課題へ影響を及ぼさないように工夫しながら、研究と平行して順次整備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の変更と実験装置の移管に伴い、実験等の実施時期を変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
パルス着磁用治具の製作並びに磁場センサの製作に関わる材料並びに工具購入のために使用する。また、国際会議での発表を計画しており、予算の一部をその際の渡航費へ使用する。
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