研究課題/領域番号 |
15K05972
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
岡本 昌幸 宇部工業高等専門学校, 電気工学科, 准教授 (70314820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | GaNトランジスタ高速駆動 / 共振形ゲート駆動回路 / 高周波電流測定 |
研究実績の概要 |
平成27年度は研究計画に基づき、(1)共振形ゲート駆動回路の設計、試作及び評価、(2)GaNトランジスタのスイッチング特性評価のための計測法の検討を行った。(1)に関してはノーマリオン形のGaNトランジスタのゲート駆動回路を設計、試作し、評価を行った。これにより、試作した共振形ゲート駆動回路によりノーマリオン形のGaNトランジスタを従来のゲート抵抗を用いる方式よりも高速に駆動できることを確認した。この成果は平成27年12月にIEEE Journal of Emerging and Selected Topics in Power Electronicsに投稿し、2月末に修正原稿を提出している。(2)に関しては、GaNSystems社及びTransphorm社の定格600V耐圧のGaNトランジスタに対し、ダブルパルス試験によりスイッチング特性を評価した。その際、高精度な電流測定を行うため、ホール素子形の電流センサを用いる方法、シャント抵抗に対し受動プローブ、作動(能動)プローブを用いる方法、シャント抵抗にBNCコネクタを取付け、同軸ケーブルにより直接オシロスコープに端子電圧を入力する方法により測定を行い、電流測定波形の比較を行った。この結果、GaNトランジスタの立ち上り、立ち下がりは非常に速いため、所有する電流センサでは測定誤差が大きいことがわかった。また、差動プローブではノイズが大きく、適切な信号処理が必要であることがわかった。一方、受動プローブを用いる方法及び同軸には比較的ノイズが小さく、スイッチング電流の測定に適していることがわかった。この成果は、平成27年度(第66回)電気・情報次関連学会中国支部連合大会にて口頭発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の共振形ゲート駆動回路の設計に際しては、まず、電気電子回路シミュレータであるLTSpiceを用いてGaNトランジスタのモデルを作成し、I-V特性、C-V特性及びチョッパ回路によるスイッチングのシミュレーションを行った。この結果、良好な動作が確認できたため、共振形ゲート駆動回路のシミュレーションを行ってみたが、GaNトランジスタのモデルが複雑であるため収束しない問題が発生した。そのため、パワーエレクトロニクス回路用のシミュレータであるPSIMを購入し、インダクタの設計及び駆動回路に寄生するインダクタンスを考慮したシミュレーションを行った。これにより、目的としていたインダクタンス値の選定を行うことができた。さらに、実際にノーマリオン形GaNトランジスタ用の共振形駆動回路を作製し駆動実験を行った結果、従来のゲート抵抗を用いる方法より高速に駆動できることが確認できた。 次に、(2)のGaNトランジスタのスイッチング特性評価のための高精度測定を行うため、ダブルパルス試験回路を作製し、実験を行った。その際、ゲート-ソース間電圧が変動し、誤点孤が生じる現象が確認された。そこでPSIMによりゲート駆動回路に寄生するインダクタンスを考慮した回路動作のシミュレーションを行った結果、(ドレイン電流による)負荷側の電流ループとゲート側の電流ループが(GaNトランジスタの)ソース端子から接地端子の部分で共通になっている場合にソース電位が大きく変動することを突き止めた。したがって、回路基板の設計に際し、ケルビン接続によりこれらのループを極力独立させる工夫を行うこと及び基板のパターンを極力小さくすることにより解決した。 高精度測定に際しては、実績概要で述べたように各種プローブによる測定を行い、測定用プローブの選定まで終えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は27年度に実施予定であったセンサのダイナミクスを考慮した電流・電圧測定法を確立する。その後は当初の予定通り、(3)高精度電流・電圧測定法に基づき、電力の算出プログラムを作成する。瞬時電力の算出に際しては、電流と電圧の積を求めることになるが、プローブに生じるオフセットや遅延時間を極力小さくしなければ正確な電力測定を行うことができない。そこで、オシロスコープのメーカオプションであるスキュー調整期を使用した上で、わずかな遅延時間とオフセットの補正を行い、電力測定誤差の最小化を図る。次に、(4)GaNトランジスタを用いた250W級マイクロインバータの設計・製作及び評価を行う。まず、前年度購入した最新版のPSIMを用い、マイクロインバータの設計を行う。その際、1台のマイクロインバータにおける簡易最大電力追従法(MPPT)の検討を行う。この方法としては、単結晶太陽光パネルにおいては照度が変わっても最大電力点(電圧)が大きく変化しない性質を利用し、キャパシタ電圧一定制御による簡易MPPT方式の検討を行う予定である。また、商用周波数の交流を生成するインバータに関しては、PSIMによる回路シミュレーションにより、スイッチング周波数の高周波化による「受動素子の小型化」と「スイッチング損失の増大」のトレードオフについて検討するとともに、マルチレベル化による小型化の効果についても検討し、250W級マイクロインバータの回路方式を決定する。そして、実機を製作し、上記電力測定法により電力変換効率の測定を行う。
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