研究課題/領域番号 |
15K05976
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 留美子 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (30170799)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ネマチック液晶 / 反応性メソゲン / 高分子安定化 / 光散乱 / 電気光学特性 / ハイブリッド配向 / スマートガラス |
研究実績の概要 |
H28年度は,p型液晶に加えn型液晶を用いた高分子安定化液晶素子を作製した。365nmに吸収のない液晶を用いた場合,p型およびn型液晶いずれにおいても,ホモジニアス配向側基板またはホメオトロピック配向側基板からUV光照射を行っても,その電気光学特性に差が生じないことを確認した。しかし,365nmに吸収のある液晶を用いた場合,p型液晶を用いた素子では,ホモジニアス配向側基板からUV光を照射して作製した素子のほうが,ホメオトロピック配向側からUV光照射した素子よりも,駆動電圧が高くなること,また光散乱が強くなること,を明らかにした。これは,H27年度のUV光侵入長の計算から推測されるように,相分離した高分子の偏析が原因であると考えられる。SEM写真からもUV光照射基板側での高分子の偏析が確認できた。 n型液晶を用いた場合でも,UV光照射基板側の配向状態の違いによる電気光学特性への影響が確認できた。しかし,p型液晶の結果から推測すると,ホメオトロピック配向側基板からUV光を照射して作製した素子のほうが,ホモジニアス配向側からUV光照射した素子よりも,駆動電圧が高くなると予想されたが,結果はp型液晶素子と同様の傾向を示した。液晶の吸収係数が増加する313nmの光源を用いて行っても,同じ傾向が得られた。このことは,ハイブリッド配向の高分子安定化液晶素子作製の条件として,液晶のUV吸収に加え,液晶および反応性メソゲンの配向膜に対する濡れ性の大小関係を考慮する必要性があることを示唆するものである。 n型液晶を用いたハイブリッド配向の高分子安定化液晶素子においても,入射角に対する透過率特性が非対称となることを確認した。さらにp型液晶を用いたときと透過率が最大となる入射角は,その符号が反対となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画であるp型液晶を用いたハイブリッド配向高分子安定化液晶素子において,研究が順調に推移したのにくわえ,n型液晶を用いた素子においても研究がすすみ,p型液晶を用いた場合との相違点を明らかにすることができた。特に,p型液晶の結果から推測されるものとは異なる結果が得られたことは,素子作製に新たに「配向膜界面における液晶と反応性メソゲンの濡れ性」という検討項目が増えたことを示す重要なものであると考える。 液晶のUV光吸収と高分子相分離の偏析,およびそれが電気光学特性に及び素影響等が明らかになったことから,ホモジニアス配向の高分子安定化液晶の低電圧駆動化技術を示すことができた。すなわち,液晶の313nmにおけるUV吸収係数が異なる2つの液晶混合することによって,液晶素子の厚み方向におけるUV光強度プロファイルを制御した。これにより, UV光照射基板で高分子リッチに,UV光出射側で高分子プアな領域とすることで,異なる大きさの液晶ドメインを出現させた。大小液晶ドメイン間の液晶再配向駆動電圧の違いにより,液晶ドメイン間で光散乱が効率的に生じることで,液晶・高分子間で生じる光散乱よりも低電圧で光散乱を生じさせることに成功した。 入射角に対する透過率特性が非対称となることを確認し,スマートガラスへの応用の可能性を明らかにできた。n型液晶を用いたハイブリッド配向の高分子安定化液晶素子において,p型液晶を用いたときと透過率が最大となる入射角は,その符号が反対となることを明らかにした。このことは,2周波駆動液晶を用いることにより,ブラインド効果を周波数を変えることによって,その角度依存性を反転できるスマートガラスへの応用に発展できること示す結果である。 n型液晶に関する進展と興味深い結果が得られたことで,積分球を用いた後方散乱に関する性能評価は行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
高分子安定化液晶素子の作製:検証する液晶材料の種類を増やし,液晶および反応性メソゲンの配向膜に対する濡れ性の大小関係を検討する。また,UV光の波長を313nmとした場合においても,UV光の侵入長と液晶材料の吸収係数を考慮した素子を作製し,より低電圧駆動,強光散乱の条件を明らかにする。以上のことからハイブリッド配向の高分子安定化液晶素子特有の作製プロセス依存性を明らかにする。 スマートガラスとしての特性評価:ハイブリッド配向の高分子安定化液晶素子作製プロセスと散乱光の入射角依存性との関係を明らかにする。また,積分球を用いた前方散乱,後方散乱強度の測定を行なう事により,スマートガラスとして用いた際の,室内への入射光量の変化を検討する。 上記の検討項目において,必要に応じてセル厚の最適化,メソゲン重合時のUV強度,等を素子デザインのパラメータに加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度はほぼ計画通りの使用額であったが,H27年度の次年度使用額が26,344円あったため,H28年度も少額の次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
検討液晶材料を増やす予定でおり,それらの購入計画をたてている。
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備考 |
日経テクノロジー online 鵜飼 育弘氏によるディスプレー国際会議「IDW/AD '16」報告
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