液晶・高分子複合系において,バルク中の液晶配向を制御する“高分子安定化技術”がある。この技術を異なる配向基板を組み合わせたハイブリッド配向液晶素子に適用することで,透明状態と,光散乱状態を電圧によって切り替えられ,さらには光散乱強度の入射角依存性が発現する“スマートガラス”の機能を発現させることができた。すなわち,電圧無印加時には,どの方向から見ても透明はガラス窓状態を示す。電圧印加時には,ある角度からの斜め入射光は強く散乱し,それとは反対側の方向からの入射光は高い透過率を示す,というものである。 種々の液晶・高分子材料の組み合わせ,高分子の分散構造制御により,この非対称な光散乱特性とそのメカニズムを明らかにした。高分子材料には,重合前の低分子状態では液晶と同じ棒状分子で光学異方性を有するもの(反応性メソゲン)を用いた。P型液晶を用いた素子に電圧を印加した時,素子中央での光学軸の傾きと同じ方向からの斜め入射に対して透明,それと反対方向からは散乱状態となる。N型液晶を用いた場合は,角度依存性がp型液晶とは反転していることを明らかにし,さらには2周波駆動液晶によって周波数でブラインドの角度調整と同様な機能を発現できた。 本素子の作成過程では,液晶中に溶解している反応性メソゲンを紫外線によって光重合させている。ここで,液晶のUV吸収係数は,光学軸に対して垂直と水平では異なるため,UV照射側の基板における液晶の配向状態が垂直か平行かで,素子内における紫外線強度分布が異なる。重合に使用した紫外線波長に対して吸収のない液晶を用いた場合は,この影響は電気光学特性に現れないが,吸収を有するp型液晶を用いた場合には,垂直配向側から照射すると,駆動電圧は増加するが強い散乱強度が得られることがわかり,SEM観察によっても高分子濃度の偏りの影響が表れていることを確認した。
|