研究実績の概要 |
育成したCuxAg1-xInS2混晶半導体(x=0~1)を使用し、光学測定を行った。まず、光吸収スペクトルの偏光依存特性を調べるため、光の偏光方向と結晶のc軸方向の角度θを変化させて測定を行った。x=1に相当するCuInS2の試料では、θを変化させても光吸収スペクトルの立ち上がるエネルギー(基礎吸収端)に変化は見られなかった。しかし、x=0~0.90の試料においては、θの変化に対して基礎吸収端のエネルギーが変化する二色性が観測された。θが90度および180度のときの吸収端のエネルギー差は、x=0~0.90の各試料において異なっており、格子定数の比c/2aの値が1より小さくなる試料ほど、そのエネルギー差(二色性)は大きくなることがわかった。 次に、光吸収スペクトルの温度依存性(11~300 K)の測定を行った。その結果、バンドギャップエネルギー(Eg)は、温度の上昇に伴い、一度高エネルギー側へとシフトしてから低エネルギー側へとシフトするという特異な温度依存性を示すことがわかった。また、Egの特異な温度依存性は、CuxAg1-xInS2混晶半導体(x=0~1)、全ての試料で観測された。 このような二色性や特異な温度依存性の原因を明らかにするために、エネルギーバンド計算を行った。その結果、スピン軌道相互作用および結晶場分裂エネルギーが価電子帯頂上におけるバンドの縮退を分裂させ、それらのバンドからの光学遷移確率(選択則)が二色性の原因であることがわかった。また、I族(Cu, Ag)のd電子とVI族(S)のp電子によるp-d相互作用が、特異な温度依存性に起因していることがわかった。実際III族をGaとしたAgGaS2および、I族AgをII族のZnとしたZnIn2S4おいて実験を行った結果、AgGaS2ではEgの特異な温度依存性が現れるが、ZnIn2S4では現れないことを明らかにした。
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