研究課題/領域番号 |
15K05980
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
田中 久仁彦 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (30334692)
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研究分担者 |
安井 寛治 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (70126481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薄膜太陽電池 / ポテンシャル搖動 / 発光スペクトル |
研究実績の概要 |
Cu_2ZnSnS_4(CZTS)太陽電池では薄膜中の欠陥がポテンシャル搖動を引き起こし,これが効率低下の原因となっている可能性が指摘されている.本申請では組成比を変化させたCZTSの発光を分析することで,ポテンシャル搖動量を低減する方法を模索し,効率改善を図ることを目的としている.27年度はスパッタ法でいくつかの組成比を持つCZTS薄膜を作製し分析を行った.しかし,低エネルギー側の発光を詳しく調べることができなかった.本年度は新しく長波長領域観測系を導入し,詳しく検討を行った.その結果,作製した試料の欠陥は”taile like” (バンドの裾様)ではなく”defect like”(=欠陥様)であることが判明した.またdefect likeであるためポテンシャル搖動が100 meV程度と非常に大きいことがわかった.低エネルギー側の発光分析できていない27年度の結果ではZnが多い方(相対的にCuが少ない方)がポテンシャル搖動が少ないことが判明していたが,低エネルギー側を分析した結果,Znの量に関係なくCuが少ない方が搖動が減ることが判明した. CZTSはCu_2SnS_3がZnSを取り込んでできることが知られていること,Cuが少ない方がポテンシャル搖動が減ることが判明したこと,そして申請者が所有するスパッタ装置では組成比を調整させることが難しいことがわかってきたため,成長温度を変化させながら固相成長法でCuが少なめのCZTSを作製し,ZnSを取り込んでCZTSができる過程でどの様のポテンシャル搖動が変化するのかを検討し,ポテンシャル搖動を減らすための成長過程の検討を行った.その結果,400℃以上でCZTSが生成されること,欠陥はdefect likeであること,成長温度の上昇とともにポテンシャル搖動が減るものの,ほとんど減らないことが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最終目的は太陽電池の発電効率を下げるポテンシャル搖動を減らし,効率を改善することである.初年度は観測装置の性能の制限により低エネルギー側の発光スペクトルを正確に評価できなかったため,今年度はさらに低エネルギー側を観測できる装置を導入し詳しく調べたところCuが少ないとポテンシャル搖動が減る傾向にあることがわかった.そのため,Cuの含有量を変化させ,スパッタ法により様々な組成を持つCZTS薄膜を作製したが,組成比が大きくずれると薄膜が剥離しやすくなり分析可能な試料を作ることができなかった.これを行うためには三元同時スパッタ装置やターゲットをあらかじめ任意の組成比を持つ多元化合物にするなどが挙げられるが,現状の設備・予算では行うことができなかった. そこで,組成比をさせることによる搖動低減の検討を中断し,当初の予定通り,先にCZTS生成過程でどのように搖動量が変化するのかの検討を行った.その結果,作製温度では搖動量はほとんど変化せず搖動量を低減することはできなかった.当初の予定では今年度中に搖動量を低減し,それを基に29年度は搖動量が少ないCZTS薄膜を用いて太陽電池の高効率化を図る予定であった.しかし,現状まだ大幅に搖動量を減らすことができないためやや遅れているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
計画では29年度は搖動量を減らした膜を用いて太陽電池の高効率化を目指す予定であった.しかし,現状,搖動量を減らすことはできていない.したがって,引き続き搖動量を減らす方法の検討を行っていく.ポテンシャル搖動が起きる最大の要因は銅と亜鉛の入れ替わりといわれている.低温アニールにより銅と亜鉛の入れ替わりを減らすことができるが大幅に時間がかかることが知られている.これまで,発光スペクトルの観点からこれを調べている例は無いため,発光スペクトルから算出した搖動量と低温アニールプロセスとの関係の調査を行い,搖動量を減らす方針の検討を行う.さらに,CZTSの成長温度を変化させ,CZTSの形成過程と搖動量の変化の関係を検討し,搖動量を減らす方針の検討を引き続き行う.また,銅と亜鉛の入れ替わりを減らすために銅サイトに他の元素を添加する方法の検討を行っていく.
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