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2015 年度 実施状況報告書

コロイダルナノドットの配位子機能化による薄膜素子への応用

研究課題

研究課題/領域番号 15K05986
研究機関和歌山大学

研究代表者

田中 一郎  和歌山大学, システム工学部, 教授 (60294302)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード半導体コロイダルナノドット / 薄膜 / 電界効果トランジスタ / 有機メモリトランジスタ / 配位子
研究実績の概要

本研究では、直径数ナノメートルの半導体結晶の表面に有機分子が配位した半導体コロイダルナノドットの薄膜を作製し、それを薄膜デバイスに応用するための技術を開発することを目的としている。半導体コロイダルナノドットは表面に有機分子が配位し有機溶媒に良く分散するため、スピンコート法などの溶液プロセスを用いた薄膜作製が可能である。したがって室温程度の低温プロセスが適用できる。これらの理由から、今まで真空や数100℃以上の高温プロセスを使う半導体薄膜デバイスに比べて安価に作製できるだけでなく、プラスチック基板を用いてフレキシブルなデバイスの作製も可能といった特長がある。しかし、有機溶媒に対する分散性を向上させる目的で表面に配位している長い有機分子は絶縁性が高いため、コロイダルドット間の電荷移動が難しいという欠点があり、エレクトロルミネッセンス素子や薄膜トランジスタに応用することが難しい。
今までに行われた研究では、表面に配位している有機分子を短いものに交換してから薄膜を作製する、あるいは、薄膜を作製してから酸などで処理して配位子を除去するなどの試みが行われて来たが、高性能な電子デバイスや光デバイスなどを実現するために充分な結果は得られていない。
そこで、本研究では絶縁性の高い配位分子に替えて、伝導性が期待できる有機配位子を開発することによって半導体コロイダルナノドット薄膜の導電率を向上させ、薄膜トランジスタなどのデバイスに応用することを提案する。そのためには、様々な有機分子のエネルギーレベルを知ることが重要なので、本年度はワークステーションを購入してその計算を行った。また、比較のために半導体コロイダルナノドット薄膜を用いた電界効果トランジスタや有機メモリトランジスタを作製し、それらの特性に対する配位子除去の効果を検討した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

平成27年度は新規配位子に応用できる可能性のある有機分子の探索と今後の比較検討のための配位子除去によるコロイダルナノドット薄膜の導電性制御の検討を行った。
前者については、ワークステーションを導入し、Gaussian09を用いて可能性のある有機分子の分子軌道のエネルギー計算を系統的に実施した。直鎖ポリエン系、縮環系およびそれらが混合した系で様々な分子を探索した結果、HOMOのエネルギーが適切と思われるものが10種類見つかった。さらにそれらのうちで、半導体コロイダルナノドットの配位子交換に適した温度で液体状態にあるものは4種類あり、同ドットの合成に適した温度で液体状態にあるものは3種類あることが分かった。
次に、後者については、オレイン酸が配位した硫化鉛コロイダルナノドットの薄膜を溶液法で作製し、硫化アンモニウム処理によってオレイン酸を除去し、電界効果トランジスタを作製した。硫化鉛コロイダルナノドットの薄膜が一層の場合は、配位子除去処理によって薄膜に多数の亀裂が生じ、導電性が低くてトランジスタ特性を示さなかったが、さらに成膜と配位子除去のプロセスを繰り返すことによって亀裂が埋まり、p型のトランジスタ特性が得られた。その伝達特性から得られたキャリア移動度は1E-4cm2/Vs程度であった。さらに、硫化鉛コロイダルナノドット単粒子層をフローティングゲートに用いた有機メモリトランジスタを作製し、その記録特性と配位子除去の関係を調べた。その結果、配位子除去と硫化鉛ナノ結晶の大きさを変えることで記録時間は約1/10に短縮されることが分かった。
以上のように、有機分子の探索により、新規配位子の候補を複数明らかにでき、比較対象となる配位子除去の効果についても多くの知見を得ることができたので概ね順調に進展していると判断できる。

今後の研究の推進方策

本研究では新規配位子を用いて半導体コロイダルナノドット薄膜の導電性を改善し薄膜デバイスへ応用することを目的としている。今までに、新規配位子となる候補の複数の有機分子が探索されたので、今後はそれらを用いた半導体コロイダルナノドットの作製を検討する。
まず、市販の硫化鉛コロイダルナノドットを用いて、その配位子をオレイン酸から新規有機分子へ交換する実験を行う。配位子交換によって、硫化鉛コロイダルナノドット薄膜の導電性を改善できれば、それを用いた電界効果トランジスタを作製して効果を確認する。
しかし、配位子交換がうまくいかず、コロイダルナノドットが凝集・沈殿してしまう可能性が考えられる。その場合の対応策としては、(1)一部のオレイン酸も配位子として残して分散性を保ちつつ新規配位子による導電性改善を検討する、(2)新規配位子を有する半導体コロイダルナノドットを原料から合成する、の2つが考えられる。前者の方法では分散性と導電性がトレードオフの関係になるが比較的容易に実施できる。後者の方法ではコロイダルナノドット合成技術を有する研究協力者と共同で実施する。
以上の方法で半導体コロイダルナノドットの導電性が改善されれば、薄膜トランジスタだけでなく、薄膜太陽電池や発光素子への応用も検討する。

次年度使用額が生じた理由

平成27年度の研究は概ね計画通りに進行したため、予算も99%以上使用したが計画とは若干の差異が生じた。これは、ワークステーションの購入で仕様を変更したために、物品費が当初予算より12万円程度節約されたが、本研究に使用している純水製造装置の予定外の故障による部品交換費用が発生する等により消耗品費が増加したためで、差し引きで13,326円程度の次年度使用額が生じた。

次年度使用額の使用計画

次年度繰越額は平成28年度の物品費として本研究に必要な試薬等の消耗品を購入するために使用する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2016 2015 その他

すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)

  • [学会発表] コロイダルナノドット単粒子膜をフローティングゲート層に用いた有機メモリトランジスタ2016

    • 著者名/発表者名
      中野史掘、阪川秀紀、宇野和行、田中一郎
    • 学会等名
      第63回応用物理学会春季学術講演会
    • 発表場所
      東京工業大学 大岡山キャンパス
    • 年月日
      2016-03-19 – 2016-03-22
  • [学会発表] Writing characteristics of organic memory transistors with embedded monolayer of semiconductor colloidal nano-dots2015

    • 著者名/発表者名
      Fumihoru Nakano, Hideki Sakagawa, Kazuyuki Uno, Ichiro Tanaka
    • 学会等名
      17th International Conference on Modulated Semiconductor Structures
    • 発表場所
      Sendai International Center
    • 年月日
      2015-07-26 – 2015-07-31
    • 国際学会
  • [備考] 和歌山大学システム工学部 精密物質学科 電子材料グループ

    • URL

      http://portal.sys.wakayama-u.ac.jp/mc/semiG/index.php?FrontPage

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公開日: 2017-01-06  

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