研究課題/領域番号 |
15K05990
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
大石 敏之 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40393491)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ワイドバンドギャップ半導体 / レクテナ / 高周波大電力 / ダイヤモンド / 酸化ガリウム / デバイスモデル |
研究実績の概要 |
レクテナ回路に必要な微細パターンが作製できるようにダイヤモンドのデバイスプロセスを改良した.まず,数十ミクロンのショットキーバリアダイオード(SBD)やキャリア濃度を測定できるパターンを配置したフォトマスクを設計,作製した.次にトランジスタに利用している2酸化窒素(NO2)ホールドーピングプロセスをSBDプロセスに適用することでショットキー電極とオーミック電極の間の寄生抵抗を小さくした.その結果,順方向バイアス2 Vにおいて,24 A/cm2という高電流密度のSBDを実現した. 次にダイヤモンドSBD2個とコンデンサ,抵抗から構成するダブルダイオードのレクテナ回路を作製し,レクテナ動作(RF-DC変換動作)を実証した.SBDの電流-電圧特性からパラメータを抽出し,回路シミュレーション用のモデルを作成した.このモデルをもとに回路を実際に作製した.その結果,10 MHzの高周波(振幅 9 V)を,約4 Vの直流電圧に変換できることを確認した.これによりダイヤモンドSBDがレクテナに適用できることを実証した. また,物理的なモデルを使ってGa2O3のキャリア速度の解析した.その結果,バンド内で電子が伝導すると考えると,実測のキャリア速度を良く説明できることがわかった.バンド内の電子の移動度はバンドでの伝導における移動度より1桁程度低いと予測できた. さらに評価に用いるバイアスティーの作製を行った.コイルとコンデンサを利用することで,欠陥が反応する周波数である数kHz付近で動作するバイアスティーを作製した.幅広い周波数領域(1 mHz~5 MHz)でインピーダンスを測定できる装置を購入し,初期検討としてGaN SBDを評価,欠陥評価に利用できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の実施項目であったデバイスプロセス技術の改良,結晶内の欠陥の電子状態の解明,キャリア速度の解析に対して,計画以上に進捗した.特にデバイスプロセス技術の改良が進み,レクテナ回路の設計とRF-DC変換の実証した.これにより,計画外であったが,ダイヤモンドSBDがレクテナに適用できることを初めて示すことができた.物性値と電気的特性の関係性の検討から,高性能化に重要な課題は抵抗低減であることがわかった.抵抗を下げるためにはキャリア濃度を増加させれば良いので,高キャリア濃度形成が可能なNO2ホールドーピングプロセスを適用した.その結果,SBDの高電流動作に成功した.このように物性値との関連性をとりながら研究を進めている. 欠陥との関連性を検討するため,周波数依存性を測定できる系についての初期検討を実施した.コンデンサ,コイルからなるバイアスティーを試作し,結晶欠陥が反応する数kHz付近で動作することを確認した.また,低周波から高周波までの周波数で測定できる装置を購入し,立上げ,GaNデバイスで測定できることを確認した. キャリア速度の解析はGa2O3について,実施した.バンド内にも電子が移動できるという2バンドモデルを検討した結果,実測値を良く説明できることがわかった.このモデルは窒化ガリウムに適用されており,新規ワイドバンドギャップ半導体であるGa2O3でも同様な伝導機構が発生していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,平成27年度に引き続き,回路性能を向上させるデバイス構造を検討するため、主に物性の解明や物性値を使った等価回路モデルの作成を進める.特に今年度,計画にはなかったが,RF-DC変換動作を実証することができたため,今後はこの結果をもとにさらに効率を改善することを物性値と関連づけながら検討する.特に効率を改善するため,ダイヤモンドSBD中に含まれる寄生抵抗や寄生容量に対応する物性値を学術的に研究する. また,ダイヤモンドとともに新規ワイドバンドギャップ半導体である酸化ガリウム(Ga2O3)についても検討を開始する.ダイヤモンドとはデバイスプロセス方法が異なるため,フォトマスク作製,プロセス改良を行い,まず,RF-DC変換動作まで実証する.この過程で,等価回路を利用したモデルを作成,物性値との関連性を検討していく. 結晶欠陥の評価のため,高周波信号を発生する高周波電源を購入する.平成27年度は比較的低周波(10 MHz)での電源を借用し,動作を実証した.さらに高周波までの特性を評価するために,平成27年度に購入を予定していた高周波電源を購入する.これによりさらに高周波領域での研究を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
高周波電源の購入を平成28年度に遅らせたこと,Ga2O3のデバイスプロセス改良を本年度にしたためである.当初,高周波電源の購入は平成27年度に予定していた.しかし,申請後,装置借用ができたため,まずは借用品にて実験を行った.その結果,ダイヤモンドSBDにて,RF-DC動作を実証するという成果を得た.また,新規ワイドバンドギャップ半導体のダイヤモンドとGa2O3ではデバイスプロセスが異なっていた.平成27年度はダイヤモンドに注力したため,Ga2O3用として考えていた消耗品の購入を行わなかった.以上,実験結果を装置購入にフィードバックしたこと,ダイヤモンドSBDに集中したため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に借用品の高周波電源を使用した結果,さらに高周波で大電力の電源が必要であることがわかったため,借用品より高周波かつ大電力を発生できる電源を購入する.平成27年度に作製したダイヤモンドSBDでは借用装置限界の高周波でもRF-DC動作が可能であり,限界を調べるためにさらに周波数が高い高周波電源が必要である.また,今後,レクテナ回路に入力する電力を増加させるためには,借用品では不足することもわかった.このため,電力増幅器を合わせて購入する予定である. 平成27年度の成果としてダイヤモンドSBDにて寄生抵抗を低減することで,レクテナのRF-DC動作を実現できることがわかった.平成28年度はGa2O3に関してもSBDを作製し,実際の動作と物性値の関係を明確にしていく.このため,Ga2O3デバイスを作製するために必要な消耗品を購入する.
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