研究実績の概要 |
平成28年度末の今後の研究の推進方策にて,「1. 色素増感発電機構を取り込んだ酸化チタン多孔体と導電性高分子ポリアニリン(PANi)の複合膜(TP膜)による光蓄電フィルムの作製」,「2. 酸化銅膜と酸化亜鉛膜のヘテロ接合による固相発電層とTP膜の光蓄電フィルム」の2つの方針で研究を進めることとした. 1の色素増感機構を取り込んだTP膜については,これまで問題としていたPANi部分からの漏れ電流に加えて,光発電効率もPANiによって低下することが明らかになった.この結果から,同じ電解質中で光発電と蓄電を行うには,光発電の必要なバンドギャップ端のエネルギー準位と蓄電に関わる酸化還元種のエネルギー準位を,これまでよりもさらに詳細に制御する必要があることがわかった.この制御法の一つとして,PANiにアミノフェノール類を添加することで酸化還元電位を制御する方法を見出した. 2の固相発電層については,酸化銅電着のパラメータの見直しを行い,電着液のpHを詳細に測定・制御して,pHと電着膜質の間の知見を得た.さらに中間電極として酸化チタン多孔体上へのアルミドープ酸化亜鉛の電着に取り組み,多孔体上に電着膜を得ることができた.いずれの膜も実用レベルの性能とはならなかったが,今後の性能向上に繋がる知見を得た. 上述2項のどちらにも共通するTP膜蓄電層については,以下の3点の成果や知見を得た.1. 電極の3次元配置による高性能化.2, 電着条件に対するTP複合膜の形成の光学顕微鏡観察から多孔膜内のPANi成長のモデル化.3. 実装に繋がる電極積層技術の確立.このようにTP蓄電層の開発は概ね順調に進んでおり,光蓄電池だけではなく,蓄電池としても期待できるものとなりつつある. 研究期間全体において,十分な成果を上げたとは言えないが,光蓄電シートの開発に不可欠な知見を得ることができたと考えている.
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