研究課題/領域番号 |
15K05997
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
遠藤 和弘 金沢工業大学, 工学研究科, 教授 (50356606)
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研究分担者 |
有沢 俊一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 超伝導位相エンジニアリンググループ, グループリーダー (00354340)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テラヘルツ発振 / ビスマス系超伝導体 / プラナー型新構造素子 / 薄膜 / 非c軸配向膜 / 配向制御 / MOCVD法 / 固有ジョセフソン接合 |
研究実績の概要 |
我々は、薄膜を使って、実用レベルの発振強度を持つテラヘルツ(THz)素子を目指し、有機金属化学気相成長法(MOCVD)によりビスマス系銅酸化物超伝導体BSCCO薄膜の高品質化を進めてきた。その課程で、非c軸配向の単結晶膜を用いると、表面に電極を設けるだけの極めて簡単な構造で、実用化に向けブレークスルーするべき最大の課題である、高出力THz波発振が可能な新しい素子ができることを着想した。これは、バルク結晶やc軸配向膜では不可能である。そこで、ミスフィットが小さい(110)配向の低誘電率酸化物の単結晶基板上に、(117)配向のBi-2212薄膜や(100)配向のBi-2223薄膜を作製した。双晶のない単結晶薄膜を得るため、オフ角10度の傾斜基板を用い、ψ-φスキャンによるX線回折法により、双晶のない単結晶薄膜であることを確認した。さらに、基板温度を2段階に変え、低温でのヘテロエピタキシー成長とそれに続く高温でのホモエピタキシー成長を行うテンプレート法を用いて、結晶性の良い高品質の薄膜を作製することに成功した。得られた単結晶薄膜について、表面モフォロジーを原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察し、直流4端子法により超伝導転移温度Tcを調べ、素子設計・作製の素材とした。 実用レベルの高出力なTHz波の発振が可能な、新しい素子構造を設計した。前年度に引き続き、素子の基本形状は固有ジョセフソン接合(IJJ)の接合方向を長辺方向とする長方形で、その両端に電極を持つだけの、極めて簡単なプラナー型構造とした。膜厚の異なる単結晶薄膜を作製し、その上に、つくばの半導体素子加工ファンドリーで、素子長(電極間距離)、素子幅を変えた様々な寸法のパターンを描画して素子を作製し、IJJの電流・電圧(I-V)特性を調べた。それらの結果を逐次、薄膜作製と素子の寸法・形状にフィードバックして、最適化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新構造の高出力THzデバイスの実現に向けて不可欠とされる、膜厚が異なり、双晶のない、かつ結晶性の高い高品質な(117)配向のBi-2212や(100)配向のBi-2223の単結晶薄膜の作製に成功するなど、クリアーすべき課題が順次解決されている。また、寸法の異なるパターンを持つ素子の作製も軌道に乗っている。 一方。研究の途上において、MOCVD法で配向性を制御したBi-2212薄膜が、抵抗の小さな温度依存性を持つことがわかり、パワーエレクトロニクスで喫緊の課題となっている酸化インジウムを代替する新しいモジュール抵抗になる可能性を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
設計したプラナー型の素子構造を、既存の半導体加工プロセスを用いて作製している。目的のプラナー型の素子は、絶縁層の形成も不要で工程も少なく、構造と加工プロセスが簡単かつ微細なため、高集積化に適している。一枚の薄膜試料に様々な寸法のパターンを描画して、効率的に最適な形状や寸法、および各素子のスループットを調べることができるかを検討する。従来のc軸配向のメサ構造は、素子表面が絶縁(I)層のBiOで覆われており、電極のオーミック・コンタクトが困難だと予想されるが、新構造のプラナー型素子では、電気伝導(S)層のCuO層を通して、電極のオーミック・コンタクトが容易である。作製した素子について、固有ジョセフソン接合(IJJ)の電流・電圧(I-V)特性を測定しているが、今後IJJ特性が得られた素子についてTHzの発信特性の測定を行う予定である。また、走査SQUID顕微鏡を用いて、(117)配向や(100)配向の非c軸配向のBi系酸化物単結晶薄膜の観察を進めており、これにより理論的に予測されるTHz波の発振メカニズムの検証を行う。目的とする素子作製は、素材となる薄膜作製と密接な関係があるため、素子設計・作製や特性測定で得られる情報は、適宜、薄膜作製にフィードバックして、より素子に適した薄膜の作製を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度にはこれまで培った実験結果を基に、新構造の素子作製と評価実験に集中し、得られた結果を薄膜作製にフィードバックして、THz発振のための最適条件を探す。このために、より厚い膜厚を得るための長時間の連続運転が必要とされる等、多様な条件での薄膜作製が要求される。これを事前に予測してシミュレーションを行ったところ、本年度分の残り(BーA)を次年度に繰越し、連続運転で大量に使用するガスやMOCVD原料など、薄膜作製に必要な消耗品代に充当することが良いと判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
主として、MOCVDの連続・長時間運転で必要なUP3の高純度アルゴンガス、有機金属・有機錯体原料、オフセットの傾斜角を持つ単結晶基板などの消耗品の購入に使用する。その他に、異なる寸法のパターンを持つ素子の作製、真空ポンプ用フォンブリン油、ガスケット、サセプター、石英トレイ等の装置メンテナンス材料の購入に使用する。
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