本研究は近年、理想的な次世代メモリとして注目されているトンネル接合タイプの強誘電体メモリの実現について探るものである。第一目標として実際に電極/強誘電体/電極のナノ構造を原子レベルで均一、高品質に形成する必要がある。これについては、本研究ではスパッタ法において、飛来粒子の方向と運動量を制御して結晶育成を精密化する独自手法を考案しており、これを活用してナノ積層構造の形成を行い、ブレークスルーを図るものである。さらに第二目標として得られた種々の素子構造についてトンネル、強誘電特性を分析することでデバイス化に必要な物性解明やさらには最適設計法の構築を期待している。 本年度は最終年度であり、強誘電トンネルメモリ素子のデバイス化において、最後の段階である電極部分の形成が目標であった。具体的にはPtおよびIrのナノ結晶育成、特に2次元成長を利用して、原子レベルで平坦な薄膜と多層構造の実現に取り組んだ。 独自開発手法である運動量制御スパッタ法において、運動量を制御するシールドパネルを複数配置することで、広域にわたる均質なナノ結晶成長と、連続的なナノ膜の形成に成功した。具体的には、シールドパネルの配置場所、開口径、基板温度などの条件が鍵であったが、これらに加えて成膜条件、AFMによるナノ結晶観察と組み合わせて、最適化を進めた。 調査の過程で、基板表面のマイグレーションや表面の粒子密度に関する知見が集まり、それから核成長速度の選択、核形成の促進と抑制などの制御を加えた。これらの工夫により、Ptについては高結晶品質のナノ結晶連続膜がmm以上の広面積にわたって均質に得られる条件を確立した。さらには、得られた膜の諸性質を測定した。今後はこの手法を拡大することで多様な積層構造への展開が見込める。
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