研究課題/領域番号 |
15K06002
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研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
原 嘉昭 茨城工業高等専門学校, 自然科学科, 准教授 (30331979)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 鉄シリサイド / 近赤外発光 |
研究実績の概要 |
本研究室において化学気相輸送法により成長させたFeSi2単結晶の在庫がある程度あったことから,当初の研究計画ではH28年度以降に予定していた,「FeSi2単結晶のPL発光特性における大気中アニーリング効果」の調査を先行して行った。アニールの温度は400から1000℃,時間は12時間で行った。その結果,700から900℃でアニールした試料から,8Kにおいて,1200から1500nmの広い波長範囲に幾つかの発光が重なった発光スペクトルを観測した。スペクトル分離を行うと,1291,1339,1361nmに鋭い発光,さらに1275,1415,1492nm付近にピークをもつブロードな発光の重ねあわせであることが分かった。特に鋭い発光はFeSi2単結晶を大気中アニールして得られた結晶の本質的な性質を反映していると考えられる。試料の温度を上昇させると,これらの発光はおよそ200Kで完全に消光した。 一方,顕微ラマン散乱の測定を行ったところ,結晶表面の部分的にFe2O3が形成されていることが明らかになった。このことから FeSi2とFe2O3,またはSiO2との混在状態が,新しい発光を生み出していると考えられ,現在,その起源を探る研究を進めている。具体的には,FeSi2,Fe2O3,SiO2の粉末を様々な存在比で混合し,ペレット状に焼成した多結晶試料からの近赤外発光を調査し,FeSi2単結晶を大気中でアニールした試料から得られた発光スペクトルを再現するかどうかの調査を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように,当初の計画ではH28年度に実施する予定であった研究を先行して行った。具体的には,FeSi2単結晶の大気中アニールにより1300nm付近に興味深い発光を見出し,その発光メカニズムに関する調査に多くの時間を費やした。しかし,ここで見出された発光は,本来の狙いである1500nm付近の発光とは異なるものである。 当初の狙いである1500nm付近の発光増強については,OsSi2とFeSi2の混晶であるOsFeSi2の作製に着手した。現在までにOsとSi, FeとSiの固相反応によるOsSi2,FeSi2の合成には成功したが,Os,Fe,Siの固相反応によるOsFeSi2合成は,今のところ十分な結果が得られていない。XRDの測定において,回折ピーク位置がOsSi2とFeSi2の間に観測されることを期待しているが,OsSi2の単独の回折ピーク位置とほぼ一致してしまう。現在,OsとFeの仕込み量を変化させて,XRDの回折ピーク位置の変化を調査している段階である。多結晶合成と平行して近赤外PL測定も行っていく。また,まもなく化学気相輸送法による単結晶成長にも着手する準備ができている。 以上のようにH28年度の予定をH27年度に先行して行い,H27年度末ごろからH27年度に予定していた研究に着手した段階である。3年間の計画から考えると,現在までの所は概ね順調に進展している,と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きFeSi2単結晶のPL発光特性におけるアニーリング効果および酸化の効果の調査を進める。これまでに見出した1.3ミクロン付近の発光の起源について調べるとともに,本来の目的である1.5ミクロン付近の発光増強に有効なアニーリング条件を探る。 またOsFeSi2の多結晶成長の合成は既に着手している。H28年度4月に納品になった半導体励起固体レーザー,光学実験台を用いて,今後,早急にOsFeSi2多結晶の近赤外PL発光特性評価を行う。本研究の狙い通りOsSi2とFeSi2の混晶化により,バンド構造が直接遷移型に変化するなら,多結晶ではあるが,この段階である程度の発光強度の増強が観測されることが期待される。更に多結晶の合成条件(焼成温度,焼成時間など),FeとOsの存在比率などを変化させ,もっとも発光が強くなる合成条件を探る。有効な発光が確認されれば,MRS等の国際会議での発表申し込みを行う。 また,OsFeSi2多結晶やOs,Fe,Siを原材料として,化学気相輸送法によるOsFeSi2単結晶作製に着手する。これまでOsSi2は化学気相輸送法による単結晶作製例が報告されており,塩素系の輸送剤を用いられている。本研究でもTeCl4やAlCl3などの化学気相輸送法に用いられる輸送剤を用い,単結晶成長を行う。原材料のOsとFeの仕込み量や輸送剤の種類,量,単結晶の成長温度を変化させ,より良質で大型のOsFeSi2単結晶が得られる条件を明らかにする。良質の単結晶が得られれば,PL発光特性の評価のみならず,電気輸送特性などの物性評価を詳細に行い,得られた結晶のバンド構造に関する知見を得る。 OsFeSi2の近赤外特性の研究と平行して,FeSi2単結晶への各種金属元素の熱拡散効果の調査も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体励起固体レーザーの仕様策定,入札に時間がかかってしまった。入札のために,複数社が応札できるような仕様にする必要があり,実際に必要な仕様との調整に手間取ってしまった。しかし,H27年度中には間に合わなかったが,H28年度4月21日に,半導体励起固体レーザー装置一式(2,376,000円)が既に納品になっている。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の通り,H28年度4月に半導体励起固体レーザー一式を既に購入し,納品となっているため,既にH27年度分は残額がなくなっている。
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