研究課題/領域番号 |
15K06006
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中払 周 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主幹研究員 (90717240)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トランジスタ / 原子薄膜 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / 極性制御 / ショットキー接合 / フェルミ準位ピンニング / 低消費電力 / 集積回路 |
研究実績の概要 |
将来の低消費電力集積回路の主要要素と期待される極性可変トランジスタを実現するために、遷移金属ダイカルコゲナイド原子薄膜半導体のデュアルゲートトランジスタの研究開発を行っている。本年度はその初段階として、本研究課題の用途に最適な遷移金属ダイカルコゲナイド原子薄膜半導体材料の選定と、更には金属‐半導体接合を形成するコンタクトからの電荷注入特性を詳細に調べた上で、選定された半導体材料に対するコンタクトに最適な金属種の選定に注力した。その目的で、遷移金属ダイカルコゲナイド原子薄膜半導体材料である二テルル化モリブデンの示す両極性に注目し、複数種の金属材料とのショットキー接合を形成し、電荷の注入特性の評価を詳細に行った。これは特に、ほぼ真性の半導体である二テルル化モリブデンに対して、電子と正孔の両方を注入可能にすることを目的としている。一連の実験の結果から、仕事関数の小さなチタンとの接合に対して電子の注入特性が良好であること、逆に仕事関数の大きな白金との接合に対して正孔の注入特性が良好であることが明確となった。また、仕事関数がこれらの金属の中間に位置する金属に対しては、電荷の注入特性は劣ることを見出したが、これはショットキー接合における金属側のフェルミ準位の位置から想定された通りの結果である。これらの結果を元に、極性可変トランジスタの実現において最適な遷移金属ダイカルコゲナイド原子薄膜半導体材料とコンタクトの金属種の組み合わせとして、二テルル化モリブデンと、チタン(n型)-白金(p型)の組み合わせが最適であるという結論に至った。これらの組み合わせにより、チタンと白金を並列したハイブリッドコンタクトを二テルル化モリブデンに対して形成し、ゲート制御に応じて電子と正孔の両方が注入されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的のトランジスタ構造と動作原理を実現するためのボトルネックの一つと想定されていた、ショットキー接合からの電荷の注入特性の問題に対して、非常に良好な解決への道筋を、本年度における研究から見出すに至った。これは、特に半導体と金属との接合おいてに共通して現れる問題であるフェルミ準位ピンニングが、二テルル化モリブデンにおいては非常に弱くしか現れないという、計画段階で想定した以上の結果を得たことに起因する。このフェルミ準位ピンニングが弱いことで、ショットキー接合を通じた電荷注入過程におけるショットキー障壁のトンネリングを増大する必要性が大きく減少したのであり、コンタクトの設計が想定以上に単純化できる見通しが得られた。更に、得られた結果から、真性半導体に対してゲート制御によって電子と正孔の両方が注入可能となるハイブリッドコンタクトも、当初の計画通りに実現するに至った。また、これらのコンタクトを備えたトランジスタの試作において、次の重要な検討課題となるゲート絶縁膜との積層構造を最適化するための検討にも着手した。これは特に、六方晶窒化硼素やグラフェンとの積層構造を構築するためのものであり、手動にて積層プロセスを行う技術を得つつあるなど、概ね計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従って、次年度は遷移金属ダイカルコゲナイド原子薄膜半導体とゲート絶縁膜等との積層構造の検討を行う。ここでは特に、ゲート電極とコンタクトの電極が、原子薄膜の互いに逆面に位置するような構造が必要であり、様々な形態の積層構造を検討する必要がある。また、ゲート絶縁膜に高誘電率材料を堆積することで、チャネルの電荷の移動度を増大させることも検討課題である。以上の要素を組み合わせた単体のトランジスタの試作を行い、極性可変トランジスタとしての特性向上を実現するべく研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費の用途として想定していたマニピュレータシステムは、当該年度の期間での研究活動においては必要とならず、既存の装置の利用にて十分に研究の遂行が可能であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
新年度からの所属研究機関における組織再編に伴い、研究環境、特にサンプル試作と評価の環境に変化があり、研究活動が進展しやすくなった部分と、新規な実験用具の整備が必要な部分が出てきた。これら環境の変化に柔軟に対応しつつ物品費の使用を行うが、特に平成28年度内での使用を想定している。
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