これまでに確立してきたショットキー接合からの電荷注入における電荷の極性制御に加えて、ゲート絶縁膜の形成とそれに伴うキャリアドープの影響について検討を重ねた。これまでに、原子層堆積によるアルミ酸化膜の形成による強い電子ドープの影響が問題となることが判っていたが、特にこのプロセスにおいて前駆体として水を用いることの影響が大きいと推測された。そこで、当初の想定通りに六方晶窒化硼素をゲート絶縁膜として用いる検討を行った。このために、光学顕微鏡システムにマニピュレータ制御により位置を精密に設定できる機構を取り付けて、数ミクロン程度の原子膜どうしを貼り合わせる機構を構築した。これによって六方晶窒化硼素の極薄膜をMoTe2に貼り付ける手法を確立した。しかし、貼り付けた原子膜の安定性、とくにその後のプロセス等における原子膜の剥がれ、特に六方晶窒化硼素上に形成したゲート電極の剥がれ、更にはMoTe2チャネルの電気特性の劣化等の問題が見いだされて、今後の検討課題となった。 研究期間全体を通じて、遷移金属ダイカルコゲナイド系原子薄膜を用いた極性可変トランジスタの開発を行った。まず、両極性が比較的顕著であったMoTe2が本研究の目的では最適な物質であること、特に電子と正孔の両方が注入可能となるショットキー接合の形成にはこのMoTe2が現状で唯一の解であり、金属の選択によって注入電荷の極性制御が可能であるというることを世界に先駆けて明らかにした。これは電子と正孔の両方を注入する必要がある極性可変トランジスタにおいては決定的に重要な要素技術である。更にゲート絶縁膜とトランジスタの閾値制御についてはMoTe2に特有の問題を解決する必要があることが明らかになった。
|