研究課題/領域番号 |
15K06017
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
木下 健太郎 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60418118)
|
研究分担者 |
伊藤 敏幸 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50193503)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 溶媒添加効果 / 金属イオン含有イオン液体 / ナノ多孔体 / CBRAM |
研究実績の概要 |
本研究は申請者が提案する, CBRAMの性能を制御する全く新しい手法である「細孔エンジニアリング」の有効性を実証し,CBRAMの明確な設計指針を提供することを目的とする.平成28年度はCu/金属酸化物/PtのCBRAM構造における溶媒添加効果及び金属酸化物材料依存性を詳細に調査し, 以下の成果を得た. 1. 金属イオン含有イオン液体の添加効果: 金属酸化物層にCu又はAgを含有するイオン液体 (Cu-IL又はAg-IL)を添加し, データの書き込み/消去の繰り返し可能な回数やスイッチング電圧のばらつきへの影響を調査した. Cu-IL, Ag-IL共に含有金属イオン濃度が高いほど繰り返し回数とばらつきが改善された. 2. 酸化物材料依存性: 金属酸化物層にNiOとAl2O3を用いたCBRAMで信頼性を比較した. 何れの素子に置いてもCu-IL, Ag-ILの添加による顕著な信頼性の改善が見られたが, 更に, 信頼性の酸化物材料種異存が確認された. 酸素イオンの拡散が容易なNiOに比べて, 困難なAl2O3の使用により信頼性が著しく向上することから, 酸素イオンの拡散がCBRAMにおける金属イオン拡散起因の抵抗スイッチングを妨げ, 信頼性を低下させることが示された. 3. 多孔体材料としての金属有機構造体の検討: 多孔高分子錯体(MOF)を電子デバイスに応用するためには, 薄膜形成手法が必要である. 薄膜MOFはMOF構成金属と有機分子の両方が溶解された溶液中に基板を浸漬することで合成される. この従来法では基板に3次元的に材料を供給するため平坦性が低く, ナノレベルでの制御は困難であった. 本研究では, 基板にMOFの構成金属を使用し, 溶液に有機分子のみを溶解する手法を考案した. これによりMOFの2次元的な結晶成長が促され, 平坦性の高い薄膜が形成可能となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,細孔サイズ及び細孔壁の物理化学的性質に対するメモリ特性の依存性の評価を行うのが当初の計画であった. しかし, 計画に沿ってある程度研究を実施し, 結果を基に具体的な研究計画を練る中で, 細孔のサイズと周期性, 孔壁の物性を精密に制御できる新たな材料の導入が必要であるとの結論に至った. そこで, 極めて高いデザイン性を有し, 原子レベルでの細孔設計が可能な金属有機構造体 (MOF)をCBRAMのメモリ層として用いるための検討を進めることとした. 故に, 今期はメモリ素子構造の実現に向けたMOF薄膜形成技術の確立を目指した. 基板からMOF構成金属を, 有機配位子を溶媒から, それぞれ別々に供給する新しい手法を考案し, 緻密且つ平坦性の高いMOF薄膜が実現された. 金属酸化物層にNiOとAl2O3を用いたCBRAMをそれぞれ作製、評価した結果, 金属酸化物層内の酸素拡散を抑制することで, 信頼性が大幅に向上することが明らかになった. 同時に, 本研究は, 金属酸化物多結晶の結晶粒界を細孔として利用するのでは, 細孔サイズと細孔壁物性の制御及びそれぞれの効果を切り分けることが困難であり, 上記MOF導入の必要性を検討する根拠ともなっている. 更に, 昨年度に劇的な効果が確認された溶媒添加効果について, 特に顕著な効果が見られたイオン液体に金属イオンをドープすることで, 更なる性能の向上が達成された. 計画の変更を余儀なくされたものの, これらは何れも細孔エンジニアリングの有効性実証のみならず, CBRAMの信頼性向上の観点からも重要な成果であることから, 今期の研究の進捗は概ね順調であると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
・今期開発を進めたMOF薄膜形成手法を用いることで, 金属酸化物層をMOFで置き換えたCu/MOF/Pt構造の評価を進める. 今期は溶媒中の水分を徹底的に除去し, 温度を細かく制御することで, 更なる緻密且つ平坦性の高いMOF膜を実現したい. ベースとなるMOFとして, その化学的安定性の高さ故に最も汎用性の高い材料の一つであるHKUST-1を考えている. また, MOFの細孔がナノスケールであることから, 溶媒の充填がより困難になることが予想される. 故に, イオン液体中でMOFを育成する等, 溶媒を確実に細孔に充填する方法を探る必要が生じる可能性がある. メモリ層としてのMOFの検討は, 自己組織化を利用した究極の微細化・高密度化という観点からも進めるべきテーマであるが, MOF薄膜の形成と電子デバイス応用自体に困難が予想されることから, EBリソを利用した微細エッチングプロセスによる人工的な細孔の作製も検討する. ・現状では溶媒の添加を, 室温における金属酸化物層への滴下により行っていることから, 細孔への溶媒の浸透度にばらつきがあり, 測定のばらつきに繋がっている可能性がある. 故に, 溶媒, 特に金属イオン含有イオン液体を加熱して粘性を十分に下げた状態で試料を浸漬加熱することで, 細孔への溶媒の充填にばらつきが出ないよう工夫する必要がある. 29年度は実素子でのメモリ特性評価が計画されていることからも, 溶媒加熱・浸漬プロセスを確立し, 素子間ばらつきを抑制することで溶媒添加効果の本質を明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
H28年度は突然の故障によりドラフトの修理を余儀なくされた他, 重要な国際会議での情報収集を優先した結果, 当初計画していた電気化学的パラメータを取得するための評価装置の購入を見送らざるを得なかった. そのため, 今年度の使用計画を下回るよう出費を抑え, H29年度での装置購入を検討することとした.
|
次年度使用額の使用計画 |
H28年度に購入を見送らざるを得なかった電気化学パラメータ評価装置を購入する予定である.また、MOF形成の設備費・材料費も捻出する必要がある.
|