チップ上光配線用のSi光変調器には微細な素子サイズ、高い消光比、低消費電力、高速変調、温度安定性等の多くの要求が課せられる。従来のSi光変調器の研究では主に高消光比や高速変調が追及されてきたが、消費電力の低減に関する積極的な研究はなかった。本研究では低消費電力化に焦点を絞り、低電圧駆動が可能なトンネル電界効果トランジスタ(TFET)を位相変調器として利用する低電圧駆動マッハツェンダ型シリコン光変調器の実現可能性を検討し、下記の成果を得た。 (1)位相変調器としてMOSキャパシタ等のMOS構造を採用した場合、従来では光導波部の直上にゲート電極が配置されるため伝搬損失が大きくなり、シリコン細線導波路には不向きであった。これを解決するためゲート電極を光導波部から離れたところに配置する構造を考案した。この構造は位相変調器にTFETを採用することにより可能となった。 (2)デバイス作製プロセスの簡素化を検討した。本来MOSトランジスタの作製には非常に時間がかかるが、本研究ではゲート電極にAlを採用し、層間絶縁膜は無しとする等、作製プロセスを可能な限り簡略化した。簡略化したプロセスでもCMOSトランジスタは正常に機能することを確認した。 (3)最終年度はSOI基板上にTFETを位相変調器とするシリコン光変調器を試作した。TFETはかろうじて動作を確認したが、ゲート電圧を10V程度かけないと動作しない結果となった。これはトランジスタのチャネル部の不純物濃度が低かったため、ゲート電圧を十分かけないとソース-ドレイン間でトンネルが起きないためと考えられる。また光変調を試みたが観測は出来なかった。これはTFETの駆動電流が小さいため、キャリヤプラズマ効果による屈折率変化が非常に小さかったためと考えられる。今後はチャネル部の不純物濃度の最適化やTFETの駆動電流密度を大きくする構造を再検討する。
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