研究課題/領域番号 |
15K06025
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
能勢 敏明 秋田県立大学, システム科学技術学部, 教授 (00180745)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液晶 / フレネルレンズ / 多孔質PMMA / ミリ波 / PDLC |
研究実績の概要 |
昨年度までに開発した多孔質PMMA材料の調製法を拡張し、直径60mm、厚さ10mm程度のバルク状多孔質PMMA材料を準備した。それを基盤として、小型の3D切削加工機を用いてフレネルレンズの試作を行った。外観上は問題無く精度よく加工が可能である事が確認され、機械加工に耐え得る強度を持っている事を実証した。また、加工面のSEM観察の結果、刃物の接触の仕方によっては多孔質構造にやや変形が見られるものの、加工面においても良好な多孔質構造が保たれている事が分かった。多孔質材料の空孔率は80%以上あるため屈折率はほぼ空気と変わらず、フレネルレンズ形状となってもほぼ素通し状態であった。一方、加工後のサンプルに液晶材料を滴下すると、表面から良好に内部に液晶が浸透し、数十分程度で内部の空孔が満たされる事を確認した。この状態では、フレネル構造部分が液晶の屈折率で決まる大きな値となり、回折限界に近い良好なレンズ特性が得られている事が確認された。 次に、電磁石を用いた磁場駆動によって液晶レンズの動作確認を行った。ここでは、フレネル構造の溝部分と同じ構造で、適当な屈折率を持つ凹レンズと組み合わせ、磁界印加による液晶の屈折率変調効果を敏感に観測できる構成として動作の定性的検証を試みた。初期のレンズ特性が最適条件からずれてしまう為、ミリ波収束特性におけるピーク強度は大幅に低下するが、磁界の方向によってピーク強度の上昇/下降が切り替わる様子が明確に観察され、磁界による液晶分子配向効果から期待される変化が確認された。また今後の検討を踏まえ、同じフレネル構造の作製において、最近発展のめざましい3Dプリンタの利用の検討を始めた。3Dプリンタを用いて、内部をできるだけ緻密な構造にして作製したレンズでは、わずか2周期程度のフレネル構造で、回折限界程度まで収束できる良好なレンズ特性が得られる事を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機械加工によってミリ波用のフレネルレンズを実現する試みは、ほぼ想定通り研究が進み液晶分子配向による可変特性の検証も行った。すなわち、機械加工による表面の変形や変質もほとんど見られず、SEM観察によって良好な多孔質構造が加工面においても保持されている事が確認され、機械加工によるバルク状のPDLC型液晶デバイスの作製法の可能性を見出した点はほぼ予定通りの進捗状況である。また、実際に液晶材料の導入も表面から簡単に行う事ができ、80%程度の空孔率を想定して設計したフレネル構造において液晶材料導入後に、ミリ波の収束特性が回折限界程度まで小さくなるような良好なレンズ特性が得られる事も確認されている。 一方で、今後は定量的なレンズ特性の評価結果に基づいた議論が必要となるが、液晶分子の動きがまだ十分に得られていない可能性もあり、ミクロな孔構造の制御も並列して進める必要がある。そのため、多孔質PMMAの調製プロセスにおける初期の材料混合プロセスの多孔質構造に与える影響について検討を行っている。しかし現状では、考えられる実験条件の変化に対してSEM観察および空孔率の測定等を行っても、顕著な依存性を見出す段階には至っていない。経験的には全く異なる多孔質構造が発生する事例が生じる事も分っており、多孔質形成メカニズムにも関連する未知の制御条件が存在する可能性もある等、今後検討すべき課題も明らかになっている。一方で、ある程度再現性良くバルク状、またはフィルム状の多孔質PMMAを作製する条件は明らかになっているため、今後の実際のデバイス試作のフェーズへの大きな影響は無いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
3Dプリンタを用いたミリ波用フレネル構造の作製方法の検討を進める。今後、液晶との複合化レンズの実現を目指して、凹レンズ型の容器に液晶材料を導入する方法で動作特性の検証を行う。電磁石による磁界印加駆動法を継続して用いる事とし、ミリ波ビームの収束特性を自動的に測定する計測システムの整備を行う。XYZステージの長距離動作化や3次元スキャニングに伴う測定の高速化が必要になる事が考えられる。 プロジェクトの最終年に当たる事から、想定していた作製方法の中で残されているスプレイ法について検討を行う。手作業による薄膜形成の実現性は検証されているため、この手法をバルク素子の作製法へ拡張する事が目標となる。再現性良く長時間にわたる作業が必要になるため、自動化システムが不可欠となる。そこで、自動スプレイガンをキーとするバルク状多孔質PMMA材料の作製システムを作製する。スプレイ膜の積層形状を決める基板を、前述の3Dプリンタを用いて準備する方法を検討する。スプレイ膜作製条件を始めとして、基板材料との密着性や積層化のための条件など多数の作製条件を最適化する必要があるものと考えられる。特に、一層毎に発生する大幅な収縮現象が最終的なバルク構造に影響を及ぼさない手法を見出す事が大きな課題と思われる。これらの検討を踏まえて、3Dプリンタで作製した凹レンズ型の基板の溝部分に、スプレイ法によって多孔質PMMAを充填し液晶材料を導入する事によって、液晶複合化ミリ波用フレネルレンズを実現し、性能の評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、想定される測定装置のスペックがはっきりしなかったため、既存の装置を用いて定性的な評価を行う事によって動作の検証を行った。今後の定量的な評価に向けて測定装置の改良が必要になるが、その設計および整備は今年度の定性的な評価の検討結果に基づいて次年度に行う事としたため。
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次年度使用額の使用計画 |
電磁石を中心とする測定システムの改良や自動スプレイシステムの作製が必要になる事が明らかになっているため、昨年度の予算と合わせて物品費に利用する予定である。
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