研究課題/領域番号 |
15K06030
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
和保 孝夫 上智大学, 理工学部, 教授 (90317511)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | A/D変換器 / ニューラルネットワーク / ΔΣ変調器 / Hopfield / ノイズシェイピング / オーバーサンプリング |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、Hopfield型ニューラルネットワークを用いたA/D変換器の構成法について考察を進めた。特に、前年度に考案した非2進A/D変換方式、すなわち、ニューロンとして従来から用いられてきた単純な2値量子化器をΔΣ変調器に置き換えたA/D変換方式、に関して信号レベルのシミュレーションを行い、従来方式と比較しながら定量的評価を進めた。さらに、非対称構造を採用することで、ニューラルネットワークを用いたA/D変換器としては初めてノイズシェイピング特性を実現できる構成法を明らかにした。 1. Hopfield型A/D変換器:従来型では、ニューラルネットワーク特有の局所解に起因する大きなA/D変換誤差が見られた。また、変換結果が初期値に依存するため、同じ入力値に対しても入力信号の走査方向により出力値が異なるヒステリシス特性が確認できた。これに対して、本研究で提案している、ニューロンとして1次ΔΣ変調器を用いた4ビットHopfield型A/D変換器においては、局所解に起因する性能劣化が見られず、フィードバックの繰り返し回数を増加させることで分解能が有効ビット数(ENOB)11ビットまで改善できることが分かった。局所解に起因する性能劣化を回避できた原因は、ΔΣ変調器の出力が、時間平均をとることで入力値に近い値に収束することにあると考えられる。 2.ノイズシェイピング特性:従来の対称Hopfield型ニューラルネットワークを用いたA/D変換器では、上位と下位の出力ビットが相互に混じり合い、ΔΣ変調器に固有のノイズシェイピング機能が打ち消されてしまうことが分かった。このため、上位から下位への一方向だけに信号が伝搬する非対称構造を採用し、フィードバック係数を調整した結果、良好なノイズシェイピング特性が得られ、ENOBを15ビットまで改善できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニューロンとして従来から用いられてきた単純な2値量子化器をΔΣ変調器に置き換えた提案型A/D変換方式に関して、特許出願を行うとともに、シミュレーション環境を構築し、定量的評価を進めた。その結果、A/D変換性能(有効ビット数)が改善できることを定量的に確認できた。また、構成方法を工夫し、この方式としては初めてノイズシェイピング特性を確認できた。特に、解の発振、局所解への束縛に対する解決策が得られたことは重要な成果であると認識している。これらの結果は、本研究の着眼点と進め方の妥当性を示すものであり、引き続きこの方向で研究を進めることで、新しいA/D変換方式開拓への見通しが得られたものとして評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
多ビット化、高次化など、A/D変換性能の一層の高度化を目指し、今回の原理的確認結果をさらに発展させる。解探索の長時間化などが懸念されるため、帰還経路の追加、フィードフォワード方式の採用など、有効な解決策を引き続き考察していく。また、本ニューラルネットワークに教師つき学習機能を組み込み、素子特性バラツキに起因する変換性能劣化を抑止するための対策の検討を開始する。これらを通じて従来型A/D 変換器との性能比較を進め、本A/D変換器の優位性を明確化する。一方、実装に必要なハードウェア技術、可変重み付け素子技術(メムリスタ)などの技術調査、および、FPGAへの実装可能性について併行して検討する。
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