研究課題/領域番号 |
15K06031
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
築山 修治 中央大学, 理工学部, 教授 (90142314)
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研究分担者 |
福井 正博 立命館大学, 理工学部, 教授 (50367992)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電池システム / 経年劣化 / 劣化モデル / 統計的手法 / 寿命予測 / 最適構成 |
研究実績の概要 |
本年度は,(A)最適電池システムの統計的設計手法の確立および(B)電池セルの劣化ばらつきモデルの構築に対して,以下の成果を得た. (A)では,セルのサイクル劣化ばらつきを,初期ばらつきと容量維持率のばらつきを用いて表現するモデルを確立し,その妥当性を確認するため,ある企業の協力も得て,サイクル劣化実験を行い,サイクル劣化ばらつきを混合正規分布で表現可能であることを確認した.また,セルのサイクル劣化情報を用いて,直列あるいは並列接続されたモジュールの劣化を推定する手法を構築した.その性能を評価するため,18650型Li-Ion電池を4段直列したモジュールの劣化実験を行い,実験で得られた劣化ばらつきと提案手法のそれとを比較し,0.7C充電1C放電のサイクルが300回以内であるならば,提案手法の予測は妥当であることを確認した.さらに,混合正規分布に対する最小値演算および平均値演算を行う手法を改良し,多数の成分を持つ分布を精度よく2つの成分を持つ混合正規分布に変換する手法を構築した. (B)では,初期ばらつき,温度特性,経時変化を取り込み可能な高精度な組電池用回路モデルを考案し,これを用いて組電池の動作シミュレータのプロトタイプを作成した.このシミュレータは,熱回路法を用いた熱分布計算,放熱の違いによる劣化ばらつき,内部抵抗ばらつきの発生過程,充電電流の分流,充電容量や充電率の変動が生じるメカニズム,それらに起因する劣化ばらつきをシミュレーションできる.また,18650型Li-Ion電池を用いて,温度,充電容量,および内部抵抗の時系列データを測定し,これらをシミュレーションモデルに反映する技術(キャリブレーション手法)も確立した.さらに,18650型Li-Ion電池を8段直列接続したものを10並列にしたモジュールに対して,熱分布,内部抵抗,充電容量の測定を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(A)に関しては,4段直列モジュールのサイクル劣化実験から得られる劣化ばらつきと,提案手法で得られた劣化ばらつきが,0.7C充電1C放電のサイクルを300回以上繰り返すと,急激に劣化するセルが生じ始めるため,提案手法の利用限界を超えてしまい,2つのばらつきが乖離し始めることが判明した.この急激な劣化の原因はセル毎の充電率のばらつきだけでは無いと推定されるため,現在,劣化したセルのナイキスト曲線を調べ,劣化原因の特定を行っている.この現象を劣化モデルに取り込むことができれば,モデルの修正だけで,提案手法を変更する必要はない. しかし,モンテカルロシミュレーションとの比較から,多数の混合正規分布に対する最小値演算および平均値演算において,2つ成分を持つ混合正規分布への変換を繰り返すと,誤差が増大する場合があることが分かった.この問題を解決するには,アルゴリズムを変更しなければならないが,次年度に行う予定であった実験結果との比較も実施しており,また,GPUを用いたモンテカルロシミュレーション手法が十分効率的であることも判明しているので,(A)のテーマ全体としては順調であると言える. (B)に関しては,セルの劣化要因を理論的に解析し,劣化とそのばらつきの適切な表現方法を提案しており,また,次年度に計画していた熱分布シミュレータのプロトタイプとして,熱回路法を用いた手法を構築しているため,順調であると言える.なお,直並列接続された小規模モジュールの特性(セル間電流や電圧など)を解析する回路シミュレータの性能の実証実験は引き続き行っている.
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今後の研究の推進方策 |
(A)に関しては,次年度は,並列接続されたモジュールの経年劣化を解析するアルゴリズムを構築し,これと前年度に構築した直列接続用のものを組み合わせ,任意の直並列接続に対応できるものにすることを目指し,以下のように研究を遂行する. まず,ある企業の協力により得ることができたサイクル劣化のばらつきデータを詳細に解析すると共に,300サイクルを超えて急激に劣化したセルのナイキスト曲線と新品のそれとを比較することにより,劣化の原因を調査する.これらの結果と,直列モジュールにおけるセル毎の充電率のばらつきが劣化に及ぼす影響を,劣化モデルに組み込む.また,実験データを用いて並列モジュールの劣化ばらつきのモデルも修正し,提案手法の精度を向上する.さらに,多数の混合正規分布に対する最小値演算および平均値演算を精度良く実行するアルゴリズムを構築する. (B)に関しては,次年度は,熱分布シミュレータに空冷モデルを取り入れ,より実用的なシステムにする.また,8段直列したモジュールを10並列にしたモジュールに対して,充放電電流とその劣化特性の因果関係を解明し,組電池の劣化診断システムを構築すると共に,熱分布シミュレータを用いて,製造ばらつきも考慮した劣化シミュレータを構築する.さらに,MATLABを用いて,劣化シミュレータの動作(劣化進行メカニズム)を可視化すると共に,8段直列10並列モジュールに適用して,その検証を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
サイクル劣化試験を行った18650 型Li-Ion 電池(パナソニック社製)の劣化の様子を調べるため複数の周波数に対するインピーダンス(ナイキスト曲線)を調査したが,劣化の箇所やその主原因を見出すためには,新品の電池のナイキスト曲線と比較する必要があった.しかし,同型の電池がメーカにも在庫が無く,秋葉原でも見つけられなかったため,これを購入し,実験を行うことができなかった.その為,購入費用とアルバイト謝金に予定していた額が余ることになった.なお,知り合いの企業が同型の新品電池を保有していることが分かり,それらを借りることができたので,実験を開始したところである.
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次年度使用額の使用計画 |
謝金に利用する予定である.
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