本年度は,(A) 最適電池システムの統計的設計手法の確立および (B) 電池セルの劣化ばらつきモデルの構築に対して,以下の成果を得た. (A) では,高精度の寿命予測を行うためには,劣化モデルの適応的な修正が必要であることが判明したため,50個の電池セルのサイクル劣化データおよび50個の2並列モジュールのサイクル劣化データを解析した.その結果,サイクル初期には電池容量の減少が,中期には内部抵抗の上昇が,劣化の主要因であり,終期にはこの両方の要因により,非線形的な劣化が生じることを見いだした.劣化履歴から電池セルがどの段階にあるかが分かれば,劣化モデルの変更が可能となる.また,複数個の混合正規分布の最大値・最小値演算に関して,共分散計算を高度化することにより,成分個数を2個にする手法が実用的であることを確認した. (B) では,MATLABを用いて組蓄電池の劣化進行メカニズムを可視化し,SEI劣化の電流依存性や,正極抵抗劣化のSOC依存性を表現する劣化傾向式を構築した.この劣化傾向式は,温度による依存性がアレニウス式により考慮されており,組蓄電池の温度分布に基づく劣化ばらつきの解析も高精度に行える.また,小規模モジュールを用いた充放電実験により,劣化傾向式の各パラメータを同定し,電気自動車での使用条件に基づき,劣化の進行を予測するシステムを構築することにより,残走行距離を5%以下の誤差で予測できることを確認した.これらにより,充電スケジュールや充電時の空冷の有無による劣化変動を高精度に推定することが可能となり,電池交換を最小化する条件も明らかとなった.
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