平成29年度は,「圧電体を装荷したマイクロ流路素子」の効果を明らかにする計画で開始した.研究を進める中で,マイクロ流路プレート外部から電界を印加すると,その大部分はプレート本体に印加され,培地中の浮遊細胞に必要な電界が印加されない懸念が生じた.そこで本研究では,マイクロ流路中の細胞に外部パルス電界を印加する試みとして,パルス電界が印加される培地中にある透明導電膜の効果について実証実験を行った. 実験では,培地を入れたエレクトロポレーション用キュベットに,マイクロ流路プレートを模した透明導電膜付きスライドガラスを電極面とガラス面を平行に挿入し,キュベット電極にナノ秒パルス電圧を印加した.結果として,最大電圧印加条件において細胞には約40kV/cmのパルス電界が印加されることが分かった.またヒト線維芽細胞を使った実験から,外部電極の正極に透明導電膜面を向けた配置が単一ナノ秒パルス電界を培地中の細胞に作用するのに適していることが分かった.この成果は,マイクロ流路中の細胞に外部からパルス電界を印加させる上で有用である. 今年度は,さらに厚さが0.07 mm以下の黒色ゴムターゲットに小出力パルスレーザを照射したとき発生する衝撃波の最大圧力・圧力勾配・力積などを調査した.最も高い値が得られるターゲット厚さは0.05 mmであり,厚さが0.05 mmのとき得られた最大圧力は遺伝子導入に可能な大きさであった.この研究成果は,マイクロ流路へのLISW照射に用いるターゲットの選択において有用である. この他,浮遊細胞に対して高い細胞生存率と遺伝子導入効率を同時に実現可能な「静電制御細胞トラッピング」を提案した.LD励起Qスイッチレーザの第2高調波で発生させた衝撃波は,1 mm2程度の範囲内に外来物質導入に十分なピーク圧力と立ち上がりが急峻なナノ秒オーダの波形が得られることを実験的に示した.
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