研究課題/領域番号 |
15K06042
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
牧野 博之 大阪工業大学, 情報科学部, 教授 (50454038)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ばらつき / しきい値電圧 / ゲート酸化膜厚 / 適応的電圧制御 / 論理回路 / 集積回路 / プロセッサ |
研究実績の概要 |
平成28年度は、しきい値電圧(Vth) とゲート酸化膜厚(Tox)を算出するプロセッサ回路の完成、およびVth とToxから論理回路の最適電圧を関連付けるテーブルの開発に注力した。 プロセッサ開発においては、前年度設計したVth検知用プロセッサを基に、Toxの検知アルゴリズムを追加して、VthとToxの両方を検知可能とするプロセッサを設計した。スピードと面積をそれぞれ優先させた2種類の回路を設計し、FPGAボードに実装して動作スピードおよび回路規模の比較を行った。その結果、面積を優先した場合の方が有利であるとの結論を得た。 これと並行して、測定したVth とToxから論理回路の最適電圧を関連付けるテーブルを作成した。まず、シミュレーションでVth とToxに対する論理回路の遅延時間の分布を求め、次に、測定されたVth とToxによる遅延時間が要求を満たす最小の電源電圧を求めてこれを最適電圧とした。今回は論理回路として8ビット加算器を用い、またモンテカルロシミュレーションによりVthのランダムなばらつきを取り入れた。これを繰り返すことで、Vth およびToxと最適電圧との対応をテーブル化した。なお、本研究では電圧発生器の開発が必要であるが、時間の制約から以前の科研費研究(No. 23560423)において開発した電圧発生器を流用することとした。 研究に当たっては、プロセッサの動作検証を行うために、FPGAボード(三菱マイコンソ機器フトウエア社製MU200-SXII-130M)を1台、また回路シミュレーションを行うために、昨年度に引き続きHSPICE一式(Synopsys社製)を導入した。さらに、データの整理、解析のために、ノートパソコン(ソニー社製VAIO S11)を1台導入した。 以上の研究から得られた成果2件を、2016年度電気関係学会関西連合大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していたVthとToxの両方の測定値を算出するプロセッサの開発を完了するとともに、VthとToxの測定値から論理回路に与える最適電圧を対応付けるテーブルの作成を完了し、研究は予定通り順調に進捗している。論理回路としては、8ビット加算器という比較的小規模な回路を選んで電圧の最適化を行ったが、別の回路でも全く同様の方法で最適電圧を決定することが可能であり、開発した手法は極めて汎用性が高いものである。また、それぞれの成果を学会発表することもできた。電圧発生回路については新たな開発は行わなかったが、以前の科研費研究(No. 23560423)で開発したものを使用できるので問題はない。導入した設備もすべて正常に機能している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、本研究で開発した手法の検証に注力する。検証は大きく分けて以下の2つの手順で実施する。 ①まず、対象となる論理回路を設計し、VthとToxの測定値に対して、前年度開発した手法でVth、Toxと最適電圧を関連付けるテーブルを作成する。これに基づいて論理回路に最適電圧を与えることで、通常の電圧では動作しなかった論理回路が動作可能となることを示す。さらに、VthとToxの測定値を変化させて同様のことを行い、どのような場合でも論理回路を正しく動作させることができることを確認する。前年度は論理回路として8ビット加算器を採用したが、本検証に当たっては、より大規模な回路として16ビットもしくは32ビットの加算器を用いる予定である。 ②上記①と科研費研究(No. 23560423)の研究成果を合わせて、論理回路とSRAMを含む一般的なLSIに対して研究の成果を確認する。具体的には、論理回路、SRAM回路および電源発生回路をすべて一体化した回路を設計し、電圧の最適化により従来では動作不可能であった回路が動作可能になることを確認する。以上の検証を行うことによって、本研究成果を用いれば、どのようなLSIにおいても製造後に最適電圧を与えることで、従来は動作不良となっていたチップを救済することができ、動作歩留まりを向上させることが可能であることを示す。 研究に当たっては、HSPICEによる大規模回路のシミュレーションを多数回行う必要があるため、前年度に引き続きHSPICE(Synopsys社製Japan University Bundle)を導入する。 なお、研究進捗の遅延などによって遅れが発生した場合は、SRAM回路を科研費研究(No. 23560423)において開発した回路から流用して回路設計の量を削減することで対処する。また、研究成果は適宜学会に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は研究発表のために旅費20万円の予定をしていたが、発表場所が近隣であったため使用額が少なく、未使用分を物品費に加えて、データ整理・解析用のノートパソコンを購入した。その結果、残金約6万円が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度(最終年度)の研究を進める上でデータの整理および保存のための物品費として使用する予定である。
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