研究課題/領域番号 |
15K06043
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
前田 洋 福岡工業大学, 情報工学部, 教授 (50264073)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分散性媒質 / 数値計算 / Z変換 / ソリトン / WDM方式 / 自動ルーティング |
研究実績の概要 |
周波数に依存して誘電率が変化する、分散性媒質中のパルス電磁波伝搬のための数値解析コードの作成と動作確認を行った。数値計算法として、汎用的な時間領域有限差分(FDTD)法と、数値分散が少なく誤差が比較的少ないConstrained Interpolation Profile(CIP)法の2種類に対して、有限の過去のデータのみを使用して現在の分散項の寄与を評価できるZ変換を応用したアルゴリズムを実装し、比較を行った。いずれの手法においても、ガウス型の包絡線を持つパルス波の入力に対して、分散性がある場合は包絡線が時間・空間的に広がりながら伝搬することを確認した。また、電界について3次の項が現れるKerr型非線形効果と、同じく3次の時間遅れの分散項を含むRaman散乱が同時に存在する場合についても解析を行った。FDTD法では、いくつかの文献に掲載されているパラメータに対してパルス電磁波が同様の振舞いを示すことを確認した。ただし、CIP法については定式化においてZ変換を用いた分散項をどの段階で評価するべきかが未だ明らかでなく、エネルギー保存則を満たさないままパルス波が伝搬してしまう。現在、この原因を解明すべく、定式化とコーディングに取り組んでいるところである。 光通信における多値振幅信号とWDM方式に対応する自動ルーティング回路については、ピラー型2次元フォトニック結晶を利用する予定である。既に線形・非分散性媒質で構成された構造中をパルス波が伝搬する場合の数値解析コードは完成しており、入出力における周波数スペクトルと電磁界分布を評価することが可能である。今後は、CIP法については上記の不具合が残っているため、FDTD法を採用することとし、進行方向に対して横向き(ピラー型誘電体円柱の軸方向)に唯一の電界成分が存在するTEモードについて解析を進める予定である。ただし、CIP法についても継続して検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分散性媒質中のパルス電磁波伝搬のための数値解析コードの作成と動作確認を行った。一次元空間における平面波について、時間領域有限差分(FDTD)法と、Constrained Interpolation Profile(CIP)法の2種類に対して、更新しようとしている離散時間の2タイムステップ前までの過去のデータのみを使用して現在の分散項の寄与を評価できるZ変換を応用したアルゴリズムを実装し、比較をすることが可能になった。時間領域における分散性誘電体の表現には、時間に関する畳み込み積分計算が現れるが、直接的にこれを計算しようとすると、計算開始時点から最新の時刻まですべての電界データを保持しなければならず、膨大なメモリ空間が必要となる。しかし、ここで用いたZ変換を応用する手法では、メモリ使用量を大幅に減らすことが可能である。また、計算に要する時間短縮にも非常に有効である。 いずれの手法においても、入射パルス波が定性的に妥当なふるまいをすることを確認できた。ただし、CIP法については定式化においてZ変換を用いた分散項をどの段階で評価するべきかが未だ明らかでなく、エネルギー保存則を満たさないままパルス波が伝搬してしまう。現在、この原因を解明すべく、定式化とコーディングに取り組んでいるところである。この一点以外は、計画通りに研究を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
光通信における多値振幅信号とWDM方式に対応する自動ルーティング回路について具体的な回路構成を検討する。構造としては、ピラー型2次元フォトニック結晶を利用する予定である。材料として、GaAs半導体やSiO2を検討する。前者は、レーザやフォトダイオードにも使われており、またフォトニック結晶構造を構成した例が報告されている。後者については、やや弱い非線形効果を持っており、その数値解析例が報告されているために、そのパラメータをそのまま利用できるメリットがある。 線形誘電体のみで構成されたフォトニック結晶導波路について、入出力における周波数スペクトルと電磁界分布を評価することが可能である。この数値解析手法を用いて、共振器の共振周波数の解析を行い、マイクロ波領域での実験と比較して共振周波数を誤差約1%で求めることに成功した。ここで共振器は一対の誘電体円柱で構成されており、この一対の円柱を非線形誘電体と置換することで、入力信号振幅の大小の変化に対して誘電率が変動し、実効的な共振器長が変化するため、共振周波数を変化させられると考えている。この共振器に、共振した周波数成分のみを別途取り出すための出力導波路を結合させる実験も行っており、フィルタ特性を得ることに成功もしているため、数値計算での確認を平成29年度に行う計画である。 今後は、【現在までの進捗状況】でのべた理由から、主としてFDTD法を採用し、進行方向に対して横向き(ピラー型誘電体円柱の軸方向)に唯一の電界成分が存在するTEモードについて解析を進める予定である。夏ころまでに非線形効果が表れる構造パラメータを得て、具体的な動作例について数値解析結果を示すことができるようにしたい。また、秋にはその成果を国際学会等で発表する計画である。最終的に、専門の論文誌に投稿・掲載されることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度当初の時点で、平成27年度からの繰越額が513,167円と大きかった。平成27年度の科研費交付決定の連絡を最初に受けた日(平成27年4月1日)が、申請者が海外研修に出発するその日であった。そのため平成27年度中は日本国内には居住しておらず、受け入れ先のカナダ・ダルハウジー大学の研究室にて、文献調査、数値計算コード開発、ディスカッション、および論文執筆・投稿に従事していた。そのために、旅費・謝金・その他経費が不要であった。 平成28年度においては、精力的に学会投稿・出張を行い、当初受け入れ額の約96%を主として旅費や国際学会参加費に使用した。その結果、繰越額は約4%の44,581円までに減っている。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、継続して数値解析コードを利用した回路の設計と信号処理動作の検討結果を議論するために、海外研修の受け入れ先大学を訪問する予定である。また、国際学会にて研究成果公表を行う予定である。平成28年度の残額は、これらに充当し使用する計画である。
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