研究課題/領域番号 |
15K06047
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
松元 藤彦 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 応用科学群, 教授 (10531767)
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研究分担者 |
大淵 武史 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 応用科学群, 講師 (40582896)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アナログ信号処理回路 / 超低周波フィルタ / インピーダンススケーリング回路 / 能動フィルタ / 生体医用電子回路 / コンデンサ / MOSFET / 集積回路 |
研究実績の概要 |
インピーダンススケーリング回路は、小さな容量のコンデンサを大容量コンデンサとして利用するための回路で、超低周波医用生体電子システム用集積回路の大幅な面積削減に有効である。この回路がコンデンサとしての特性を示す周波数帯域の低周波側の特性改善手法として、カスコード段や負性抵抗回路を利用した内部インピーダンスの高抵抗化が有効である。しかしながら、NMOSとPMOSのミスマッチによるオフセット電流が高抵抗端子に流れることにより大きなオフセット電圧が発生し、フィルタへの応用の際、適正な動作点実現の妨げとなっていた。そこで、トランジスタのミスマッチによるオフセット電流を直流同相信号と見なせることに着目し、平衡型(完全差動型)フィルタに応用する際に必要となる同相信号除去回路の性能向上を図り、カスコード段および負性抵抗回路と組み合わせることにより、低周波特性を改善しつつオフセット電圧低減の効果を得た。 我々の開発したインピーダンススケーリング回路は、電流帰還型構成であるために大きなオフセット電流が発生する。そこで、オフセット電流が発生しにくい回路機構の検討を行った結果、電圧帰還型構成が有効であるという結論を得た。これは、古くから知られているミラー効果そのものである。従来のミラー効果手法はコンデンサのスケーリング倍率を正確に決定できないという致命的欠陥があったが、本研究では、正確な増幅率を有する増幅回路を導入した電圧帰還型の接地型インピーダンススケーリング回路の新しい構成法を提案した。 さらに、低周波用フィルタの高性能化に関連した回路技術として、新しい線形OTAの構成手法を提案した。この回路は従来回路と同等の線形性を有しつつ、回路規模および素子数・素子面積が小さく、従来回路で必要とした高い精度の減衰係数をもつ減衰器が不要である。 以上の研究成果に関して、3件の国内研究会発表にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、インピーダンススケーリング回路における低周波帯域特性の改善とオフセット電圧の間のトレードオフの問題を解決することを主な目的としている。27年度の研究遂行方針として、対称型非接地インピーダンススケーリング回路の両端子に発生するオフセット電圧低減のための具体的な回路設計手法の検討と、その手法を用いて設計した回路のICチップを試作し、実験により回路の動作確認を行うことを計画として挙げた。 具体的回路設計手法の検討として、(1)従来の同相除去(CMR)回路の改善、(2)新たな同相負帰還(CMFB)回路の導入、(3)CMRまたはCMFB回路の他のブロックとの一体化による回路規模および消費電力の低減、の3段階の目標を本研究の計画段階にて設定した。27年度の研究成果としては、これら(1)~(3)のすべてにおいて検討をほぼ終え、結果を得ている。(1)の結果として、本研究の応用対象の一つである平衡型フィルタのオフセット低減に対してある程度の効果は得られたものの、十分な効果を発揮する手法の実現には至らなかった。そこで、(1)の手法について早期に見切りをつけ、(2)・(3)の手法の検討に移行し、有効性の高い回路構成手法を確立することができた。このように回路設計に関しては当初設定した目標以上に進展した。 一方、実験用ICチップ試作については、計画に対して遅れ気味である。本研究課題の直前にようやく研究室の試作環境が整ったものの、レイアウト設計と発注までの作業の不慣れさから、試作チップが正常に動作せず、結果的に失敗に終わった。今後は本研究で考案した新しい回路設計手法の実験まで到達できるよう、ICチップ試作に注力していく予定である。 以上のとおり、現在までの進捗状況は、進んでいるセクションと遅れているセクションがあるが、全体として評価すると概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の回路設計に関する実施計画では、前年度に確立した対称型非接地インピーダンススケーリング回路のオフセット電圧低減のための回路設計手法を発展させ、回路規模および消費電力の低減を図ることを目標としている。しかしながら、27年度中に28年度計画として掲げていた2つの異なる機能ブロックの一体化による回路規模および消費電力の低減を達成できた。そこで、新たな28年度の目標として、回路全体の簡素化を挙げる。27年度の成果として得られた回路構成では、2つの機能ブロックの一体化により回路内構成要素を削減したが、それ以外のブロックはその目的ごとに必要な性能を実現するオーソドックスな回路構成となっている。これまでの我々の研究成果として、電圧増幅回路や、OTA(電圧電流変換回路)の設計の様々なノウハウがあり、それらの知見を踏まえた回路構成のさらなる工夫により、インピーダンススケーリング回路全体の素子数の削減を見込んでいる。 また27年度は、当初予見していなかった新しい成果として、電圧帰還型のインピーダンススケーリング回路の新しい設計法およびインピーダンススケーリング回路と組み合わせてフィルタを構成する新しい線形OTA回路を提案することができた。28年以降は、これらの回路に関するいくつかの実用上の問題を解決するための手法検討していく。主な課題は、電圧帰還型インピーダンススケーリング回路の無歪最大振幅を考慮した各段の増幅率の検討と、線形OTAにおけるトランジスタの2次効果の影響の解析とその影響の低減である。 実験用ICチップ試作の今後の推進計画としては、年度2回の製造発注を設定しており、その通りに実施していく予定である。27年度に試作したチップを用いた実験では、回路が正常に動作せず実験結果が得られなかったため、28年度ではその反省を踏まえて所望の実験結果が得られるように慎重に進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に購入予定であった大型印刷機は、当講座が実験室で保有する現有器材や什器等の状況から、設置場所の調整が難航したことと、レイアウト設計の際に、電子計算機のモニタとして大型のものを使用する、または2台のモニタを並列使用することにより、レイアウト配置図の俯瞰的な確認が可能となったことから、購入を見送った。 また、研究発表の会場が東京都内であったため、交通費及び宿泊費が当初計上した予算を下回った。 尚、27年度当初の予算計上時に、IC試作チップ購入費を本校の運用要領に合わせて「その他」の予算に分類したが、費目別収支状況において物品費に組み込まれたため、形式上「その他」からの余剰金が多い結果となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度の使用計画として、当初予定である実験用ICチップ試作費用2回分と、国内学会・国際会議等に参加するための旅費および参加費の支出はおおむね計画通りである。それに加え、27年度繰り越し分からICレイアウト画像印刷用のカラープリンタの購入を予定している。実験室の器材や什器等の保有・配置状況から、大判プリンタの導入を断念し、デスクトップ型の大型プリンタの導入を検討している。このことにより、プリンタの購入費が当初計画よりも下がることになる。その分、当初計画として挙げていた、電子計算機の導入を前倒しすることを検討している。現有の電子計算機の中で、OSが2017年1月でサポートが終了するWindows Vistaを搭載する機種の1部をまたは1台を今年度中に更新する。
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