研究課題/領域番号 |
15K06057
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
久我 宣裕 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80318906)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 受動回路の相互変調ひずみ / 相互変調ひずみ / Passive Intermodulation / PIM / 非線形性 / 電波暗箱 / アンテナ測定 |
研究実績の概要 |
H27年度は所有するPIM測定器の残留ノイズが増加するという問題が発生したため,まずこれに対応せざるを得なくなった.そこで外部信号注入による残留ノイズ低減に関する検討を実施し,これが汎用電波暗箱での測定にも効果を有することを実験により確認した.この結果は電子情報通信学会総合大会において発表した. なお上記の状態では微小レベルのPIM測定には効率が悪い.そのため,年度初めに導入予定だった非接触測定用新規同軸管の制作を延期することとなった. 一方でH28年度に実施予定だった「同軸管を用いたPIM測定理論の電波暗箱への拡張」という課題を先行実施した.まず暗箱内に設置したセンサアンテナで反射係数測定を実施し,この結果から電波吸収体の損失を推定する方法を考案し,その結果を電子情報通信学会総合大会において発表した.さらに被測定物にポートを設けて伝達特性を精密に測定することで,これまでの非接触測定理論が電波暗箱を用いた非接触測定にも適用可能である事が示した.この結果については,2016年8月に韓国で開催される国際会議論文として発表することが決まっている. なお各種微小抵抗評価のモデル実験として,チップ抵抗の非線形性を,同軸管を用いた非接触測定により評価する実験を行った.その結果,反射計数測定では検出できない非線形性個体差を, 同軸管を用いた非接触相互変調ひずみ測定により精度よく評価できることを示すことが出来た.この結果は電子情報通信学会総合大会において発表し,かつ同学会の論文誌にブリーフペーパーとして投稿中である. また広い周波数範囲にわたる高感度なPIM測定を実現するための検討を実施し,その一例として高誘電率板で電気長を調整する手法を提案し,その効果を実証した.これに関する成果は電子情報通信学会総合大会ソサイエティ大会および総合大会において発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度の当初実施予定の項目は,「(1)電波暗箱の構成部材のPIM特性評価を,同軸管を用いた非接触PIM測定を用いて実施する」ことと,「(2)電波暗箱に存在する損失の定量的測定手法について検討する.」ことであった.項目(1)は電波吸収体,ガスケットなど実際に使用されている部材の特性評価には至らなかったが,チップ抵抗をモデル試料として,そのわずかな個体差を精密に識別する手法を考案し,かつ原理の有効性を実証をすることができた.項目(2)としては,測定系内の損失を外部IM源に対する非接触PIM測定により求める手法を提案し,精度に改善の余地はあるが,電波吸収体による損失が主たる場合の有効性を実証することができた.また電気接点を含めた基礎実験用簡易モデルの作成は今後の課題となった. またH28年度の実施予定項目は,「(1)同軸管を用いた非接触PIM測定理論を電波暗箱に拡張し,」「(2)電気接点で発生するPIMの低減法を提案する」こと,そして「(3)電波吸収体の寸法と性能がPIM測定結果に与える影響を調査する」ことであった.このうち,項目(1)はプリントダイポールアンテナを用いた実験等により前倒しで原理確認を実施することができた.項目(2)については,外部信号注入により不要なPIMを低減することを確認したことで,結果として前倒しでの実施を行う結果となったが,その一方で,時間的なPIM変動に追従する手段を導入する必要性があることも確認することができた. 項目(3)については本年度未実施である. 以上より,H27 年度は主測定器の不具合により,実施項目が当初計画とは前後するような結果となったが,総合的には順調な進捗状況であるといえると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
H27年度の当初実施予定の項目「(1)電波暗箱の構成部材のPIM特性評価を,同軸管を用いた非接触PIM測定を用いて実施する」と,「(2)電波暗箱に存在する損失の定量的測定手法について検討する.」について,次の事項を実施する.項目(1)は電波吸収体,ガスケットなど実際に使用されている部材の特性評価を実施する.またチップ抵抗をモデル試料については,その抵抗値を現象させ,より微小な抵抗条件について測定法の有効性を実証できるように改善をしていく予定である.項目(2)としては,電気接点を含めた基礎実験用簡易モデルの作成にとりくみ,同軸管を用いた非接触測定法により特性を評価できる体制を構築したいと考える. H28年度の当初実施予定項目は,「(1)同軸管を用いた非接触PIM測定理論を電波暗箱に拡張し,」「(2)電気接点で発生するPIMの低減法を提案する」こと,そして「(3)電波吸収体の寸法と性能がPIM測定結果に与える影響を調査する」ことである.このうちH27 年度に前倒しで原理確認が実施できている項目(1)は,さらなる高感度化が次なる課題となる.本年度は,これを実証するための実験系の整備を行う.項目(2)については,時間的なPIM変動に追従する外部信号注入方式等と,同軸管法を用いた電気接点部材料の評価選定等の検討を実施する. 項目(3)については,本年度は同軸管を用いた非接触測定において,電波吸収体材料ないし構成でPIM特性の差異がみられるような試料構成について検討する.基本的には,材料を小さくし,電流密度を高めて測定するというアプローチから着手していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では初年度に導体材料のPIMを非接触測定するために用いるテーパ同軸管を2本,計約81万円(税込)程度で作成する予定であった.これはテーパ同軸管の表面処理,すなわちメッキ等の損失状態が測定感度に大きく影響するためである.一方,本課題がスタートして間もない2015年度はじめに,原因は不明であるが,主測定器内の電気接点等で発生するPIMが著しく増加して不安定になるというトラブルが発生した.結果的に,この不要PIMの低減は行ったが,経時劣化の著しいテーパ同軸管の制作をすることは延期した方が得策と判断した.このような事情から,H28年度はH27年度に延期したテーパ同軸管2本の制作を実施する.そのため,予算繰り越しを実施することとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
既に発注済みで有り,6月には納品予定である.これにより,繰り越された予算は消化される.これ以外は,ほぼ計画通りに執行する予定である.
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