研究課題/領域番号 |
15K06066
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田野 哲 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80378835)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | MIMO / 無線通信 / 過負荷 / 非線形信号処理 / 演算量低減 |
研究実績の概要 |
(1) 一般化回転行列を適用した軟判定受信機:受信機において,一般化回転行列を適応選択すれば,伝送特性は改善するものの演算量が膨大になることが前年度の検討により明らかにされていた.そこで本年度は,さらなる演算量低減法を提案した.この提案法を適用すれば適応選択の演算量を,復調処理の演算量に比較して無視できる程までに低減できることを示した.さらに,軟判定を取り入れることで特性改善を図った. (2)繰返し軟判定受信機の構成法:干渉に強い線形信号検出器として,雑音除去を行う繰返し軟判定受信機の構成法を提案した.最小自乗誤差基準に基づく空間フィルタは優れた伝送特性を達成することが知られているが,原理的に雑音を発生させていることを見いだした.通常はこの雑音は付加雑音よりも少ないため問題にはならないが、高速化のため空間多重数を増やすと大きな特性劣化を引き起すことを明らかにした.提案受信機はこの雑音を低減し,伝送特性を改善する.提案法では基底格子縮小を適用しているため,硬判定信号が出力される.そこで,基底格子縮小を利用したとしても軟判定信号を出力させる手法を提案した.提案手法を上記の提案受信機に適用することで,さらに伝送特性が改善されることを確認した. (3)プリコーディングの適用による演算量低減:過負荷MIMOシステムのためのプリコーディング法を提案した.提案法は空間多重数を減らすこと無く演算量低減を可能にし,さらには伝送特性も改善する.この提案法の特性をQPSKを適用した物理層ネットワークコーディングシステムにおいて明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1) 繰返し軟判定受信機: 提案した演算量低減法により,演算量を1/100程度まで低減でき,当初の計画を達成した. (2)繰返し軟判定受信機の構成法:線形受信機としては従来のグループ検出法の適用を想定していたが,それよりも遥かに特性に優れた繰返し軟判定復号を考案し,その特性を明らかにした.即ち,当初計画を達成した.実際,線形受信機としては,従来法の4倍のスループットを達成したため,スループットに関する当初計画も達成している。 (3)プリコーディングの適用による演算量低減: 過負荷MIMOのための効果的なプリコーディングは検討されておらず,本研究においては当初の研究計画には含まれていなかったが,非常に効果的な手法を見出し,その優れた特性を明らかにした.即ち,当初予定を大幅に上回る進捗が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 繰返し軟判定受信機:前年度はQPSK変調を適用した過負荷MIMOシステムを対象に検討を進めてきたが,本年度は更なる高速化をめざして,この受信機を多値変調に拡張する手法を検討する.即ち,16QAMや64QAMへの拡張を試みる.さらには,次世代のむせん通信システムへの適用を念頭に,OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)伝送系での構成法までも検討を行う. (2) 協調受信機:過負荷MIMOシステムにおいても高い伝送特性が達成可能な端末協調受信方式へ,本提案法の適用を検討する.その際に重要になる,端末選択法等も検討行う. (2) 多値変調システムのためのプリコーディング法:前年度まではQPSK変調を適用したシステムを対象に検討を行ってきたが,本年度はより高速化をめざして多値QAM変調を適用したシステムを対象に検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体は順調に進捗し,海外での論文発表も行ったが.一部の論文発表は関連する別のプロジェクト経費で支払ったため当初の予定よりも使用金額が少なかった.また,当初演算量が非常に大きい計算を実行することを想定していたため,計算機サーバーの購入が必須であると考えていた.ところが,昨年度に考案した演算量低減法を適用すると,演算量が劇的に低減された.従って,昨年度に新たなサーバーが必要になることは無かった.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は,第五世代移動通信への適用が検討されているMassive MIMOに我々のアイデアを適用した場合に特性を検討することを予定している.Massive MIMOでは数十本のアンテナの適用まで検討されており,我々のアイデアを適用したとしても,特性評価には大規模な計算が必要になる.そこで、サーバーの購入を検討する.さらには,この2年間で検討した結果を,積極的に学術論文・国際会議論文として発表することを予定しており,経費は論文掲載費および,会議参加費等として使用する.
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