研究課題/領域番号 |
15K06081
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
湯川 正裕 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (60462743)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 適応フィルタ / オンライン学習 / 再生核 / カーネル法 / 凸射影 / 非線形推定 |
研究実績の概要 |
既存のカーネル適応アルゴリズムは、関数空間における射影に基づく手法(アプローチ1)とユークリッド空間における射影に基づく手法(アプローチ2)に大別される。経験的に、アプローチ1の方が速い収束を示すことが分かっていたが、その理由は未解明だった。本研究では、入力データに対応する特徴ベクトルの自己相関作用素が、辞書データのサンプル平均で近似できるという仮定をおき、2つのアプローチの収束速度の違いを理由づける近似式を得ることに成功した。具体的には、収束速度に影響する自己相関行列の固有値広がりを比較すると、アプローチ1の固有値広がりがアプローチ2の固有値広がりの平方根で近似できることを明らかにした。このことは、アプローチ2の固有値広がりが実用上、極めて大きい(10の10乗オーダー程度)ことから、アプローチ1の固有値広がりの方が遥かに小さいことを示す。したがって、アプローチ1の方が超球に近い誤差曲面を利用して適応学習していることが分かり、良好な収束特性の理由付けが得られる。さらに同条件の下、平均2乗誤差関数の最小解が、関数空間における最良近似(探索する部分空間の中で真の非線形関数を最も良く近似する点)と近似的に一致することを示した。本研究成果は、アプローチ1が特に有効である状況を明らかにするとともに、適応アルゴリズムによって良好な関数近似が達成され得る条件を明らかにしている。アプローチ1は、グラム行列で決まる計量を入れたユークリッド空間で射影する手法として解釈可能である。前述の知見に基づいて、収束速度をさらに改善する計量の導出にも成功している。この成果は、2016年8・9月に開催された国際会議 European Signal Processing Conference 2016 で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に実施する予定だった「直積空間上の凸射影に基づく関数空間多核適応フィルタの開発」が、平成27年度に完了したため、平成27年度にやり残した「関数空間アプローチとユークリッド空間アプローチの関係性」を深く研究した。また、平成29年度に実施予定の「関数空間多核適応フィルタのための高性能アルゴリズム」の検討まで進めてあり、初期成果をEuropean Signal Processing Conference 2017に投稿済みである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も研究協力者のMuller教授と連携して研究を進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーション用計算機、ノートパソコンは他の研究プロジェクトで使用するものを併用できた。学生の国内旅費(信号処理シンポジウム)は共同研究先企業から支払われ、学生の国外旅費(EUSIPCO)に対しては学内の奨励金が充てられた。研究代表者のEUSIPCO参加にかかる経費(旅費・参加費)は、同会議で他の研究プロジェクトに関わる発表があったため、本プロジェクトからの支出が不要となった。ICASSP2017で学生2名が発表したが、そのうち1名分の旅費等は共同研究先企業から支払われた。
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次年度使用額の使用計画 |
【1.設備備品費】シミュレーション用計算機(Dell) 480000円、ノートパソコン(panasonic)250000円、【2.消耗品】書籍180000円、【3.国内旅費】信号処理研究会(6月新潟、申請者)60000円、信号処理シンポジウム(11月岩手、学生3名分)120000【4.国外旅費】EUSIPCO2017 (8月ギリシャ、申請者+学生1名)500000円、SPAWC2017 (6月北海道)60000円、共同研究打ち合わせ(7月ドイツ)250000円、Asilomar Conference(10,11月アメリカ、申請者+学生1名)500000円、NIPS2017(12月アメリカ)250000円【5.その他】EUSIPCO 登録料(申請者+学生1名)100000円、SPAWC 登録料60000円、Asilomar Conference登録料(申請者+学生1名)100000円、NIPS2017 登録料70000円【合計】2,980,000円
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