移動体通信における送信機の高電力効率化を図るには、電力増幅器(PA)のスイッチング動作化が有効である。中でも、直交変調型包絡線パルス幅変調方式送信機は、定振幅のRF信号の包絡線をパルス幅変調することにより、本来非線形動作であるが高効率なスイッチング動作型PAを用いて、高い線形電力増幅ができる特徴を持つ。しかし、現状の技術では、(1)量子化雑音による電力効率および変調精度低下の問題がある。さらに、(2)バースト状RF信号の包絡線に追随するため電源回路に時定数を持たないD級PAを用いるため、スイッチング損失およびトランジスタの導通損失により電力効率が低下する問題がある。本研究は、これらの問題を定量的に評価するとともに、その解決策を提案し、従来にない高い電力効率と線形性を両立した送信機を実現することを目的とする。 本研究では、課題(1)に対しては、ディジタル的に量子化雑音のキャンセリングを行う構成について検討を行った。その結果、前段の量子化誤差を後段にてキャンセルすることにより量子化誤差を低減するMASH方式ΔΣ変調器をQM-EPWM送信機に適用する構成を提案し、計算機シミュレーションによりディジタル的に量子化雑音を低減できることを示した。また、課題(2)について、D級PAはマイクロ波帯においてトランジスタ出力側寄生容量がDE級PAの装荷容量と同様に働き、DE級動作によりスイッチング損失を低減できることがわかった。このため、D級PAについて駆動条件の最適化を行い、実験的に高い電力効率を実現できる見通しを得た。
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