研究課題/領域番号 |
15K06090
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
出口 博之 同志社大学, 理工学部, 教授 (80329953)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンテナ / 最適化 / 開口面分布 / 放射パターン |
研究実績の概要 |
高度ワイヤレス環境構築のための放射系を開発するため,電波特異伝搬現象を巧みに利用した導波・放射素子について検討を加え,形状最適化をよって得られた素子の特性を活かした開口面アンテナの構成法,ならびにマイクロ波・ミリ波領域の不可視化を行う電波クローキング素子の検討を行った. まず,反射波を制御する人工表面媒質の応用として,リフレクトアレーを取り上げ,交差偏波成分を低減する直線偏波素子,ならびに直線偏波から円偏波に変換する素子について各々設計を行った.そして,得られた各々の素子を基にして,360度の範囲で任意の反射位相量を持つアレー素子群を決定し,一次放射器の位相パターンを考慮して2次元配列することでリフレクトアレーを各々構成している.後者の偏波変換素子を用いたリフレクトアレーは,良好な軸比特性を実現するこれまでにない斬新な人工表面媒質であり,クローキング素子への応用が期待される. また,反射型で動作するカーペットクローキングについては,リフレクト素子を2次元配列して構成するメタサーフェスを考え,反射波の位相分布を電気的に制御することで,設計周波数における疑似的な不可視化を図った.入射角特性については,誘電体層によって構成したクローキングに比べて優れた特性が得られ,構造上,非常に薄型化できるのはメタサーフェス・カーペットクロークの大きな特徴である.さらに,3次元構造についても検討を行い,設計したメタサーフェス・イリュージョンクロークの試作,実験によって提案する方法の有効性を検証している.これらの研究成果は,電波特異伝搬素子の開発に非常に有用となるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,直交偏波共用に適した90度回転対称性を持たせた任意形状素子を取り上げ,所定の反射位相特性の実現と交差偏波成分の低減を考慮した最適化設計を行った.また,広帯域化に関する検討として,複数共振現象の制御が可能な新たな対称性を有する任意形状素子を提案した.これは,単位セルを対角で2分した領域に分け,各々について45度の回転対称性を持たせた構造にすることで,広帯域にわたって直交偏波共用ならびに交差偏波成分の低減を達成した.一方,円偏波素子については,直交する入射偏波に対して90度の反射位相差を実現させるため,2軸対称性を持たせて直交する偏波に対して異なる共振現象を実現し,なおかつ直線偏波素子の設計を応用して交差偏波成分の低減を図った.提案するレフレクト素子に45度の偏波で直線偏波を入射させれば,所定の円偏波成分が得られ,また-45度の直線偏波に対しては逆旋の円偏波への変換が行えることを数値的・実験的評価によって明らかにした.もちろん,直線偏波では偏波共用も可能となる多機能なリフレクトアレー素子である. また,リフレクト素子を基にしたメタサーフェスの検討については,反射位相の任意の制御をさらに発展させ,新たにイリュージョンクローキング技術についても一つの提案を行っている.数値的検討においては,2次元モデルを考え,実際の物体による散乱波との比較を行い,良好な特性となることを確認した.さらに,3次元構造に対しては,遠方界特性つまり散乱波のスペクトラムの実験的評価によって,妥当性を検証した.
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今後の研究の推進方策 |
電波特異伝搬素子の基本構造となる単位セル形状の検討を行うため,高精度で効率的な電磁界数値解析を基にした形状最適化を行う.そして,単層構造から多層化へと発展させ,特性を解明していくとともに,積層構造における設計法を明らかにしていく.新しい単位セルの動作原理を把握できれば,単位セルを構成する電磁流素子を予め設定し,所定の特性を実現する素子形状の設計として,回路論的な特性評価をふまえ,上で行った形状最適化と形状簡約化を同時に数値計算で行えるような方法についても検討を加える. 上の検討結果を基に反射型素子の応用としてリフレクトアレー,バックファイアアンテナ,透過型素子の応用としてホーン,レンズを取り上げ,最適化設計を行う.その際,統一的に設計・解析するため,各不連続面における反射・透過に関する一般化散乱行列をモード整合法(MM)やモーメント法(MoM)等によって予め求めておき,その後,必要となる境界条件を与えて所望の特性を達成する効率な方法を開発していく. さらに,電波特異伝搬素子を基にして,カーペットクローキング素子,透過型のクローキング素子の構成法について検討を加え,遺伝的アルゴリズムを基にした形状最適化を行い,新たな素子の開発を試みる.また,大規模高速モーメント法解析による特性評価も行い,実用化を目指した研究を行う.そして,ネットワークアナライザーによる反射特性の実測評価ならびに電波暗室での遠方放射パターンおよび利得の測定を行うことで妥当性を検証していく.アンテナ開口面分布の評価についても,電磁界のフィールド変換法を基に数値的に評価検討しいていく.
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