研究課題/領域番号 |
15K06102
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
竹内 伸直 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 客員研究者 (80005420)
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研究分担者 |
磯上 慎二 福島工業高等専門学校, 一般教科, 准教授 (10586853)
大久保 寛 首都大学東京, システムデザイン研究科, 准教授 (90336446)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地震磁気変化 / SQUID地磁気磁力計 |
研究実績の概要 |
地震断層運動に伴い磁気変化信号が観測されることが、本研究代表者らが国内外で初めて明らかにしている。しかし、観測例は、その重要性にもかかわらずこれまで数例にとどまっており、この現象を詳細に明らかにするためには観測例を大幅に増やすことが求められている。このため、平成27年度も福島県いわき市遠野町で地磁気観測を継続した。 これまで本研究代表者らが明らかにしてきたもっとも重要な点は、地震断層運動に伴う磁気変化は非常に微小であることである。例えば、マグニチュード5クラスの地震が観測点から20km程度の距離で発生したとすると、それによる磁気変化量は数10ピコテスラと極微小であり、通常地磁気観測に使用されるフラックスゲート磁力計では到底観測できない。本研究代表者らは高温超電導SQUID素子(超電導量子干渉素子)を用いた地磁気観測用磁力計を開発し、平成24年3月からほぼ4年間中断することなく現在まで観測を継続してきた。 これまでの観測結果からSQUID磁力計はその構造上液体窒素のバブリング(液体窒素の蒸発に伴う気泡の発生)などによる10Hz前後の振動波形が重畳することを明らかにすることができた。この振幅は数ピコテスラであり、これがノイズレベルを決めていると考えれるが、現時点ではこの振動波形を防止するのは困難だと思えるが、なんらかの対策を考える必要がある。 さらに地震断層運動の発生前に磁気変化があったとした場合、その変化量はピコテスラ以下のフェムトテスラの領域と推測され、この領域での観測が可能な観測システムの構築を検討する必要が出てきている。そのためにはSQUID磁力計とは原理が異なり、さらに高精度でノイズレベルの小さい磁力計の開発が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
観測地点である福島県いわき市地域では2011年太平洋東北沖地震から5年が経過し、これによる誘起地震の発生が減少してきており、地震断層運動に伴う磁気変化を観測できる地震の数が非常に少なくなっている。このため残念ながら地震断層運動に伴う磁気変化信号の明確な観測例が増えていない。しかし、地震の発生は予測しがたいため、決して観測システムを停止することが許されない。 これまでと同様に、粘りづよく観測を継続していく予定であるが、SQUID磁力計には40日おきに液体窒素の補給を行う必要があり、さらに観測システム全体の保守管理が必要である。この1年間SQUID磁力計を含む地磁気観測システムの運用自体はシステムの重大な停止もなく非常にスムーズに行っておりこの点は評価できる。 ただ、マグニチュードの小さい地震による地磁気変化はフェムトテスラ領域の分解能を有する磁力計を新たに開発する必要があるのではないかと考えられ、この点についての検討を今後行う必要があろう。明確な磁気変化信号を得るためには、現在数ピコテスラである観測装置のノイズレベルの低減も当然考慮されなければいけない。 地震断層運動が発生する前に磁気変化が発生するかどうかについては、まだそのような明確な観測例が得られていないため、今後の観測の継続が必要である。また、地震発生以前の地磁気信号を解析を行うため、信号処理技術を活用し地震発生断層運動発生前の地磁気信号の解析の準備を進めている段階であり、今後本格的に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
観測システムの保守管理を徹底し、システムを決して停止することなく地震の発生に備えておくことが最重要課題である。このためには40日程度で液体窒素を補給する必要がある他、地磁気信号を常時監視して観測システムに異常がないかをチェックしている体制が不可欠である。これらの点については現在の状況は良好であり今後も継続していく。もし、異常が発生した場合は、いわき市に在住する研究分担者の福島高専磯上准教授とともに異常事象の対応にあたる。 SQUID磁力計より感度の高いインダクションコイル磁力計を準備し、現在観測を行っている地点の周囲数か所に仮設置しノイズレベルの一番低い地点を探す。要求に満足できるノイズレベルを確保できたのち、現在の観測システムに統合し地磁気信号の観測を行う。インダクションコイルの出力信号は地磁気微分波形であるため積分器を通すことにより、もとの地磁気変化波形に戻す必要がある。 地磁気信号には電離層に流れる電流によるグローバルな磁気変化信号が重畳している。このため、純粋に地震断層運動に伴う磁気変化信号を明確に識別するためには現在の観測点からある程度離れた地点での地磁気信号が必要になる。幸い気象庁柿岡地磁気観測所がいわき観測点から約100kmの地点にある。そこで得られている地磁気信号はSQUID磁力計と同程度の精度を有するデータであり、地磁気観測所からはデータの提供を受けることの承認を得ている。これら2地点のデータを比較することにより地震断層運動に伴う磁気変化をより明確に抽出することが出来る。 地震断層運動発生より前の時刻になんらかの異常な信号が存在するかどうか地磁気信号の波形に各種の信号処理を施すことにより解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額に差が生じた一番大きな原因として、物品費としてフラックスゲート磁力計を予定していたが、本研究課題の目的である極微小地磁気変化信号を観測するには精度が十分でないことが判明したことが挙げられる。このため、インダクションコイルと積分器を組み合わせた磁力計に変更することにしたため、物品購入費の執行にずれが生じてしまった。現在、その設計と製作を鋭意進めており平成28年度中には観測を開始する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
インダクションコイル磁力計の設計と製作が進んでおり、平成28年度中には、現在地震断層運度に伴う地磁気変化信号の観測システムが構築されている福島県いわき市遠野町に設置し、ノイズレベルの低減を図り、観測システムに組み込む予定である。 インダクションコイル磁力計のノイズレベルが要求に十分満足できるように設置場所については現在観測に使用している地点の数100mの範囲で何か所か試験的に観測を行い最適地点を探す予定である。
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