研究課題/領域番号 |
15K06103
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
工藤 博幸 筑波大学, システム情報系, 教授 (60221933)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 圧縮センシング / コンピュータトモグラフィー / CT / 画像再構成 / 画像処理 / 雑音除去 / インペインティング / 逆問題 |
研究実績の概要 |
H28年度は、H27年度に基礎構築を行い「超圧縮センシング」と命名した新しい圧縮センシングの手法を、医療用X線CTと電子線トモグラフィーにおいて重要な問題である、少数方向の投影データや雑音が多い投影データからのトモグラフィー画像再構成に応用する研究を実施した。 H28年度前半においては、医療用X線CTにおいて被曝量を低減する等の目的から投影データの測定方向数が少数に制限されるスパースビューCTの状況とX線管の電流を下げ低線量で撮影を行う低線量CTの状況を想定して、超圧縮センシングに基づく画像再構成法を開発した。具体的には、画像再構成の基準となる評価関数として測定投影データから構成する重み付き最小二乗誤差と超圧縮センシング正則化項の和の形のものを用い、これを反復法を用いて最小化して画像再構成を行う手法を開発した。更に、最新の数理最適化分野で注目されている近接スプリッティングと呼ばれる数学的枠組みを用いて、ブロック反復型の高速に収束する構造を持つ評価関数最小化の反復法を開発した。そして、4種類の典型的な医療用CT画像(歯科・心臓・胸部・腹部)を用いて超圧縮センシングのシミュレーション実験による性能評価を行った結果、従来の圧縮センシングの中で最も良く使われるトータルバリエーション(TV, Total Variation)正則化と比較して、テクスチャー・滑らかな濃度変化・エッジの再現性が大きく向上した画像が得られることが明らかになった。 H28年度後半においては、電子線トモグラフィーにおいて測定時間を短縮する際に起こるスパースビューCTの状況を想定して、超圧縮センシングに基づく画像再構成法を構築した。上述の低被曝CTで構築したものとほぼ同様な画像再構成法を構築して金属材料系電子線トモグラフィーの典型的な画像を用いてシミュレーション実験を行った結果、医療用X線CTほどではないが有意義な画質改善が実現できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
従来の圧縮センシングの中で最も良く使われるトータルバリエーション(TV, Total Variation)正則化と比較して、超圧縮センシングにより当初予想したよりはるかに大きな一線を画する画質改善が実現できることが、2年間の研究により明らかになり代表者自身大変驚いている。また、H28年度に行った医療用X線CTと電子線トモグラフィーにおける画像再構成への応用研究では、当初H29年度に実施する計画を立てていた評価関数の最小化に高速に収束する反復法を用いる高速化の研究まで、ほとんど完成させることができた。更に、H28年度内に2つの査読付雑誌論文を発表して、当該テーマの著名国際会議であるSPIE Optics+Photonics 2016とSPIE Medical Imaging 2017において医療用X線CTへの応用研究がPoster Presentation Awardを受賞した。以上の3点に関して予想以上の大きな進展があった。 また、本課題の研究内容である「圧縮センシングを用いたトモグラフィー画像再構成」は、現在多様なトモグラフィー分野において重要性が高い技術と考えられており、H27年度に引き続きH28年度中にも多くの解説論文執筆や招待講演の依頼があり、H28年度内に3件の解説論文出版と6件の招待講演を完了して予想外のアウトリーチ活動を行うことができた。この点に関しても予想以上の進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の研究では、深層学習の考え方を組み込んだ超圧縮センシングの性能向上に関する研究に取り組む予定である。代表者にとっても過去に取り組んだ経験がない新しいテーマであるが、既に深層学習に関する基礎知識の理解など準備は始めており、H27-28年度に開発した超圧縮センシングの枠組みを更に発展させ性能を向上させることを目指す。また、H27-28年度の医療用CTや電子線トモグラフィーの研究成果は当初の予想以上に優れたものにまとまる確信的な見通しを得ており、H29年度中にシミュレーション実験と実データによる実験に関して更なる実験データの補強を行い、高インパクトファクター雑誌への論文投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度の研究費に816,734円の未使用額が発生した。これは、1) シミュレーション実験を実施するのになるべく以前購入したコンピュータやソフトウェアを使用して節約したこと、2) 研究成果発表は旅費先方負担の招待講演が多かったこと、3) 短期雇用で大学院学生に作成を委託する予定であったプログラムを代表者が自分で作成したこと、の3点が主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、H29年度に実施する「深層学習を組み込んだトモグラフィー画像再構成法に関する研究」と「医療用X線CTと電子繊トモグラフィー研究におけるシミュレーション実験と実データによる実験の実験データ補強」における物品購入費として有効に使用する予定である。未使用額を除いたH29年度の直接経費は800,000円であるが、ほぼ申請書に記載した予定通りに、消耗品購入・論文別刷代・旅費・学会参加費などの用途に使用する計画である。
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