研究課題/領域番号 |
15K06108
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
伊藤 文彦 島根大学, 総合理工学研究科, 教授 (40593596)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光サンプリング / 光ファイバ / インパルス応答 / 時間分解能 / ダイナミックレンジ |
研究実績の概要 |
昨年度までに、本研究企画で提案した位相雑音補正線形サンプリング法において、ピコ秒レベルの時間分解能を有する光ファイバのインパルス応答測定が可能であることを実証した。それに続いて今期では、位相雑音補正によって得られた振幅波形を多数回平均することによりダイナミックレンジを大幅に改善する手法を開発し、ピコ秒時間分解能と70~80dBのダイナミックレンジを合わせもつインパルス応答測定が可能であることを実証した。この性能は、従来報告されていたFMCWベースのインパルス応答測定法と同等レベルであり、参照経路を必要とせず被測定光ファイバの長さの制約なく適用可能なインパルス応答測定法としては、筆者の知る限り初めての成果であると考えられる。 また、開発したピコ秒時間分解能・高ダイナミックレンジインパルス応答測定器を適用して、マルチモードファイバ、およびマルチコアファイバのインパルス応答測定を行った。これらのファイバにおいて、主信号に対して数十dB以上小さいモード間結合の検出や、サブピコ秒以下の精度での群遅延時間差(DMD)の測定が可能であることを実証した。加えて、マルチコアファイバにおけるDMDの曲げ半径への依存性の検討に着手しており、そのDMDが曲げ半径やファイバの収容状態に対して非常に敏感に依存する傾向を定性的にではあるが解明しつつある。これは、高速性と高感度性を併せ持つ測定器によって初めて解明された知見である。 これらの成果は、空間多重光伝送技術を実現する次世代光ファイバを評価するうえで極めて有用と考えられる。これらの成果は、2件の査読つき国際義会議発表、1件の国内学会招待講演を含む学術発表により国内外に発信を行っている。また、海外の査読付き論文誌への投稿を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要でのべたように、ピコ秒レベルの時間分解能とでの光ファイバのインパルス応答測定が可能であることを実証しつつ、振幅波形を多数回平均することによりダイナミックレンジを大幅に改善する手法を開発し、ピコ秒時間分解能と70~80dBのダイナミックレンジをもつインパルス応答測定施術を実現した。特に計画時には明確な目標とはしていなかったダイナミックレンジについて、70~80dBという高いレベルを達成し、これによって数モード光ファイバ、マルチコアファイバにおける極めて小さいモード間結合を検出することができた。加えて、マルチコアファイバにおけるDMDの曲げ半径への依存性の検討に着手しており、そのDMDが曲げ半径やファイバの収容状態に対して非常に敏感に依存する傾向を定性的にではあるが解明しつつある。これらの点を鑑み、当初計画以上の進捗であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今期までに開発したインパルス応答測定技術をベースとして、次のような視点からさらなる検討を進める。 (1)さらなる高時間分解能化、広帯域化を実現するための検討を進める。このために、現在は10ps程度であるパルス幅を、現状設備における限界である1ps程度にまで小さくし、その際に生じる問題点を明らかにする。 (2)本測定器の重要性をアピールするため、いくつかのマルチコアファイバまたはマルチモードファイバについてのインパルス応答波形測定実験を行い、その挙動についての調査を行う。 (3)数モード光ファイバにおける非線形パルス伝搬現象の解明や、ファイバ型グレーティング素子と組み合わせた分布型センシング技術などの新しい応用展開を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験において使用する部品の1つである光90度ハイブリッドを、計画よりも安価に入手できたことにより、また一部消耗品について企業との共同研究の中で貸与を受け、それらが本実験にも使用可能であったことなどにより、進捗計画を維持したまま費用を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後、バンドパスフィルタの帯域を広くすることでさらに広帯域なパルス光源を用い、さらなる高分解能測定の可能性を探求する。その時には、光ファイバ中の非線形効果を抑圧する必要が出てくると考えられ、そのために必要なパルスストレッチャーの購入に資金を充てる。これにより、当初目標計画を上回る性能指数を実現するための課題を明確化できると考えられる。さらに、発表戦略を充実化し、主要国際会議、主要海外論文誌への成果の投稿により、成果の効果的なアピールを図る。
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