研究課題/領域番号 |
15K06123
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
吉田 久 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50278735)
|
研究分担者 |
小濱 剛 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (90295577)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | IVA / ICA / 脳波 / 母体腹壁生体電位 / 胎児心電位分布 / 筋電位 / アーチファクト除去 |
研究実績の概要 |
本研究は、例えば脳波などに混入する筋電位アーチファクトを取り除き,脳機能由来の信号のみを抽出することを目的としている。従来,適応フィルタやICA などを用いて脳波などに混入した筋電位を除去しようとする研究が行われているが,決定打がないのが現状である。そこで,脳機能・生理解析を行う上で未解決の重要課題である筋電位アーチファクト除去を行うために,IVA(Independent Vector Analysis) を用いた方法を開発することを目標に、その試金石として、妊婦腹壁生体電位などに含まれる筋電位アーチファクトを除去し,妊婦腹壁心電位から胎児心電位を抽出することなどを実施する他、光トポグラフィー計測信号に混入する運動性および全身性アーチファクトの除去法に上記のIVA を用いた除去法を適用し,さらに発展させることを主たる目的として研究を実施する。 平成28年度は,平成27年度と同様に協力機関である奈良県立医大において妊婦腹壁心電位計測試験を実施し,この妊婦腹壁生体電位に含まれる筋電位アーチファクトの除去、あるいはその影響を受けにくい解析方法について検討した。平成27年度に研究開発したIVAを用いた方法を適用した結果、妊婦腹壁心電位から胎児心電位を抽出する精度は通常のICAに比べて、10%以上の向上が見られたが、それでもなお、胎児心電位の検出が困難となる場合があった。胎児心電位の検出が困難であった原因が真に筋電位アーチファクトによるものなのか、それとも他の原因、例えば胎児心電位が非常に微弱であるためなのかを検討するために、妊婦腹壁上で観測される胎児心電位分布の推定法を開発した。その結果、現在の計測環境では母体腹壁上に現れる胎児心電位が10μVを下回ると、検出率が下がることが確認できた。また母体腹壁上の胎児心電位分布は、個人によって大きく異なることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画では,脳波に混入する筋電位アーチファクトは、妊婦腹壁心電位に混入する筋電位アーチファクトとは異なる様式で,また活動する筋肉の部位も異なる信号が混合されていることが予想されたので、これら平成27年度に開発したIVAを用いて比較することにあった。平成27年度に開発したこの方法は、通常のICAに比べて、胎児心電位を抽出する精度を10%以上の向上させることが示されていたが、それでもなお検出が困難な場合があり、原因究明のために平成28年度は母体腹壁上の胎児心電位分布推定法の開発を実施した。この方法は、胎児心電位分布のみならず、筋電位アーチファクトの分布推定も行える方法であるため、この方法を用いることによって、脳波に混入する筋電位アーチファクトと、妊婦腹壁心電位に混入する筋電位アーチファクトとが異なる様式で混入するかどうかを検証することが可能である。実際に、比較は行えなかったが、方法論の研究が進んだことなどを鑑みると、概ね順調に研究目的の達成する方向に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降も,母体腹壁生体電位から胎児心電位の検出精度を中心的な試金石として,平成28年度に検討が十分出なかったIVA法の他のパラメータの最適化を進める。この際に平成28年度に開発した、母体腹壁上の胎児心電位分布や筋電位アーチファクト分布推定法が強力に役立つものと考えられる。また、一方で「妊婦腹壁心電位」計測実験から得られるデータとは異なる性質を持つ信号計測実験として,「眠気に抗して覚醒維持を課した状態,および視覚刺激時における脳波計測」も後ろ倒しにはなっているが実施する。眠気に抗している時や視覚刺激時の脳波計測実験を実施することによって,筋の緊張による不規則に出現するタイプの筋電位が混入した脳波を計測することができる。このようにして計測される観測信号には,妊婦腹壁心電位に混入する筋電位アーチファクトとは異なる様式で,また活動する筋肉の部位も異なる信号が混合されていることが予想されるため,両者を比較検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、fNIRSを用いた実験を行う際に、被験者への謝礼金として主に使用される予定であったが、より計測精度を高めるために、fMRIと協調した実験へとその方法論を変更するように計画の練直しがあり、実験準備等のために平成29年度へその実験が先延ばしされたことがその理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度において、計画を練直したfNIRSを用いた実験時の被験者への謝礼金として主に使用する予定である。
|