研究課題/領域番号 |
15K06124
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研究機関 | 秋田県産業技術センター |
研究代表者 |
黒澤 孝裕 秋田県産業技術センター, 先端機能素子開発部, 主任研究員 (60370243)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電界計測 / 変調散乱 / 光変調 / 誘電体 / 高周波 / EMC |
研究実績の概要 |
パルス光変調式誘電体散乱電界センサの性能を評価するための計測系を構築した.高周波信号を給電したマイクロストリップラインを近傍電界波源として用い,その直上に散乱体の半導体基板を設置した.この基板に対して遠方から光を照射して散乱体材料の導電率を変化させて散乱効率を制御することにより,変調散乱素子を実現した.照射光源にはディジタル変調可能なダイオードレーザー(波長638nm,光立ち上がり時間約2ns),または,半導体パルスレーザー(波長1064nm,パルス幅0.8ns,繰返し周波数45kHz,尖頭出力25kW)を用いた.散乱体からの散乱波を遠方に設置したアンテナで受信し,光出力への同期成分を復調して散乱波強度を計測した. キャリア寿命に対する散乱波強度の変調周波数依存性については,キャリア寿命を時定数とする一次LPFの周波数特性と概ね一致した.散乱波の高速変調を実現するためには,短いキャリア寿命の材料が必要となる.一方,短キャリア寿命の材料は入射光強度に対して散乱波強度の変化が小さい.これらの結果に基づき,パルス光励起による散乱波のパルス振幅変調を試みた.キャリア寿命10nsおよび5nsのGaAs結晶を近傍波源(周波数1.5GHz-4GHz)上に設置し,半導体パルスレーザー光を照射して散乱波強度の時間変化を観測した.その結果,キャリア寿命に対応した散乱波の強度変化が観測され,散乱波のパルス振幅変調に成功した. 復調方式としてパルス繰返し周波数に同期したロックイン検波器およびパルス発光に対応した時間ゲート積分検波器を検討し,SN比を比較した.その結果,外乱ノイズが小さい場合にゲート検波器は大きいSN比が得られた一方,外乱ノイズの振幅が大きい場合にはロックイン検波の方が大きいSN比を得た.このため信号とノイズとの関係により適切な検波方式を選択する必要があると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高周波電界中に設置した半導体散乱体からの散乱波を光変調して散乱体位置の高周波電界を計測する電界センサについて,パルス光変調式誘電体散乱電界センサの性能を評価するための計測系を構築した.これを昨年度までに構築したキャリア寿命を計測するシステムと併せて使用し,散乱体に用いる半導体のキャリア寿命と変調散乱波強度との関係を検討した.この結果から高速パルス変調を実現できる散乱体材料を見出し,パルス光励起による散乱波のパルス振幅変調および被測定電界の検出が可能なことを示した.また,パルス振幅変調に対応した検波方式を検討し,復調出力のSN比を議論した.
これらの項目は平成28年度研究実施計画に挙げられており,研究は概ね予定通りに進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度実施計画に沿って進める. センサ部分で被測定電界を高い周波数に変換して散乱断面積を大きくすることで,誘電体散乱を利用した電界センサの検出感度が向上できることを明らかにする. これまでに構築したパルス光変調式誘電体散乱電界センサの性能評価システムを用い,散乱波のパルス振幅変調を利用して被測定電界を高い周波数に変換することにより,従来の誘電体散乱を利用した電界計測手法で感度が低下する低い周波数での感度向上を実現できる条件を見いだす.例えばパルス幅1nsの照射光の周波数スペクトルは帯域換算で1GHz以上のマイクロ波帯に及ぶ高周波成分を含むため,パルス振幅変調された散乱波も1GHz以上の周波数成分を含むことが期待できる.このため,これまで構築したマイクロ波帯の散乱波を検出可能なシステムを用いることで,パルス振幅変調によりセンサ部分で周波数変換されて生成する散乱波も検出可能と考えられる.これらの結果から,誘電体散乱による電界測定が適用可能な周波数範囲を拡大できることを明らかにする. 以上の本補助事業期間全体にわたって得られた成果を取りまとめ,成果発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね予定通り使用した.初年度に主要物品のパルスレーザーが当初予定より安価に購入できたこと,および,有望なセンサ材料を比較的早期に見出すことができたため,次年度に使用する研究費が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度研究費1227千円は消耗品,旅費,その他に使用し,設備備品の導入予定はない. 消耗品は477千円を予定している.内訳は半導体基板100千円,光学部品150千円,電子部品227千円である.半導体基板はより高速変調に適した材料の探索に使用する.光学部品や電子部品は補助的な研究機器の自作に使用し,高速な復調系の試作と更なる感度向上を目指したシステム構築に使用する.国内旅費は200千円を予定している.使用用途は,研究成果の学会発表2件,研究会発表1件である.また,海外旅費350千円を予定している.内容は研究成果発表1件である.その他は200千円を予定し,査読論文投稿1件及び学会参加負担金である.
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