本研究課題では、ヒトの姿勢制御における感覚統合を解明するため、複数の感覚入力の同時変容に対する姿勢の変容のモデル化を目指した。本年度は姿勢の変容をもたらす感覚入力の変容を観察するため、健常者による被験者実験を行った。具体的には、視覚・前庭感覚・固有感覚への入力を、それぞれ閉眼・直流前庭刺激・前脛骨筋腱への振動刺激により変容させ、圧力中心(Center of Pressure : CoP)および筋電図(EMG)の変化を、立位姿勢維持実験により観察した。その結果、それぞれの感覚変容に対し生理学的に妥当な姿勢の変容が観察された。この時、閉眼によりCoPの動揺が増大した。これは閉眼時に各感覚がreweightingされて統合されていることを示唆している。また、直流前庭刺激および振動刺激ではreweightingが起こらないが、筋緊張は増大する傾向が筋電図の測定により明らかとなった。これにより、感覚入力条件とreweighting・筋緊張の入出力関係が観察された。 本研究結果は国際会議(MHS2018)にて発表し議論を行った。そこで仮説として「学習(経験)済みの感覚入力においてはreweightingが起こり得るが、未学習(未経験)の感覚においてはreweightingによる重み変更が少ない」というものが得られた。以上から、姿勢制御と感覚統合のfast dynamicsの観察・計測に一定の成果が見られたと考えられる。現在数理モデル化を行っており、非負値行列因子分解を用いるよりreweightingモデルによる説明が妥当であると考えている。
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