研究課題/領域番号 |
15K06135
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
小林 泰秀 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50272860)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 熱音響コアの多段接続 / 振幅依存性の実測 / 定常発振時圧力の推定 / 管路長による位相調整 / 電力フィードバックの効果 / 進行波圧力成分の測定 |
研究実績の概要 |
当初、進行波型発電機に先行して定在波型発電機に運転周波数可変機構を組み込む計画だったが、電力フィードバック型の原理をできる限り早期に公表するため、周波数固定の場合に実際に自励発振を行う装置の開発を目指すこととした。ただし、リニアモータの効率改善が困難なため、熱音響コアの効率改善及び多段接続により発振を目指した。 1.熱音響コアの効率改善:スタック周囲の単純熱伝導低減のため、(i)管厚を従来の1mmから0.2mmに薄くし、また高温側熱交換器の保守性改善のため、(ii)従来のシースヒーターをセメント固定する構造を、カートリッジヒーターを挿入してネジ固定する構造に変更したコアを設計・製作した。(i)により理想的な音響パワーの増幅度TH/TC(高温側温度/低温側温度)に近付くことを期待したが大きな改善は見られなかった。 2.電力フィードバックと進行波音波の関係:コアを3段分製作し、従来品と合わせて全5段を直列接続した装置を構成した。多段コアが扱えるよう従来の発振解析手法を拡張した。コア1段の場合の解析結果が実際の発振状況に整合すること(発表[1])、コア5段の場合に管路長による位相調整を行い、電力フィードバックによりコアで音響パワーが増幅される方向の進行波圧力成分が強まり自励発振する発電機を実現した(発表[3])。 3.振幅依存性を考慮した解析手法の開発:従来の解析手法を用いて発振する予測結果が得られても、実験では発振しない状況が観察された。解析の元となる周波数応答が高々数百Paの比較的小さい圧力振幅で取得されるのに対して、自励発振時の定常圧力は数kPaに達し、振幅依存性を考慮して解析を行う必要性が考えらることから、二次振動系モデルに基づいて振幅依存性を考慮する手法を検討した(発表[2])。今後、大振幅で周波数応答実験を行い、定常発振時圧力を含めて発振状況を推定する手法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記、研究実績の概要で述べた通り、電力フィードバックの原理の実証を優先したため、周波数可変型の定在波型熱音響発電機の設計・製作が大幅に遅れている。ただし、まだ研究発表を行う段階には達していないが、現時点までに、(a)ムービングマグネット方式のリニアモータを構成し、固定磁石間の距離を手動調整する機構を用いて共振周波数が実際に可変できること、(b)ボイスコイルに別系統のコイルを追加し、電気回路に共振特性を持たせることでリニアモータの共振周波数を可変する機構の検討を行っている。(b)について具体的には、追加した別系統のコイルにコンデンサを直列接続し、その容量を可変させることで共振周波数が変化する実験結果を得ている。この点は概ね当初計画通りに進んでいる。 また、電力フィードバック進行波型発電機に関しては、基本原理(=電力フィードバックにより一方向の進行波圧力が増強され自励発振に有利に働く)を実証することができた。これは熱音響工学分野においては初めての報告であり、学術上の意義が大きいと考える。 よって総合的にみて、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
1.発表[3]について:電力フィードバックにより実際に一方向の進行波圧力成分が強まる実験結果を得たが、その大きさは小さく、二箇所で計測された圧力信号の位相差は1~2度であった(理想とする完全な進行波圧力分布が実現できた場合は、圧力センサ間の距離に応じて数十度の位相差となる)。そこで、この進行波成分の改善を目指す。具体的には、コアを多段接続する連結部の凹凸や管の材質を変更(現在の塩ビ管を銅管に変更)し、管壁における音響パワーのロスを低減させる。また、実験の再現性向上のため、現在使用している大型の市販スピーカを改造したリニアモータを、市販の小型ボイスコイルモータに変更する。インピーダンスマッチングの観点から、熱音響コアの内径はそのままで、それに接続される管およびリニアモータの内径を短くすることを検討する。電力フィードバック回路に共振特性を持たせることにより、管路長の代わりに回路定数の調整でリニアモータ間の位相調整を行い、装置全体の小型化を目指す。全体として発表[3]の課題に対処し、論文投稿を目指す。 2.周波数可変のリニアモータについて:ボイスコイルに別系統のコイルを追加し、電気回路に共振特性を持たせることでリニアモータの共振周波数を可変する機構の検討を進める。具体的には、電力-音響パワー間の伝達マトリクスに基づいて、両者間の変換効率を理論的に導出し、電気回路の定数による変化を調べる。 3.発表[2]について:大振幅で動作するスピーカを購入し、管内圧力が数kPaの状況下で熱音響コアの周波数応答を取得し、振幅依存性(圧力振幅が大きいほどコアの入出力ゲインが小さくなる)を調べる。
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