研究課題/領域番号 |
15K06138
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩原 朋道 京都大学, 工学研究科, 教授 (70189463)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サンプル値系 / 最適制御器 / 高速リフティング / 関数空間L∞ / 関数空間L2 / 線形行列不等式 |
研究実績の概要 |
本研究では,サンプル値制御系の研究においてこれまでに発展させてきた作用素論的手法について,扱うシステム,信号ならびに問題に関するクラスをこれまで以上に拡張し,従来扱うことの難しかった制御性能解析問題をカバーする新展開に取り組み,さらには制御器設計手法を確立することを目標としている.
平成28年度の取り組みでは,振幅の瞬時的最大値を考えることに相当する関数空間L∞での扱いを入出力ともに要する課題に取り組み,とくにサンプル値系を対象とした場合の最適制御器の設計法について,サンプリング区間での信号を区分的1次関数で近似する取り扱いに基づく手法を与えた.本成果においては,これまでの研究でも中心的な道具立てとして利用してきた高速リフティングのもと,従来研究が用いてきた区分的定数関数ではなく区分的1次関数を利用することを可能としている.厳密な最適制御器の設計は極めて難しく,近似的な最適制御器の列が厳密に最適な制御器に収束することを保証する形の設計法の確立が重要である.本成果では,この収束が実用的な意味において従来のものよりも速いものとなるような新規な手法を与えることに成功している.このような設計は,外乱の瞬時値に上限が存在するという現実的な状況下で,制御系の平衡点からのずれの瞬時的な最大値を特定の値より小さく留めなければ,接触や衝突という大きな問題が生じるような制御系に関して極めて有意義な成果といえる.
一方,上記の接触や衝突に関する問題は,入力がL∞空間ではなくL2空間に属すような制御系においても同じく重要であり,そのような問題についても研究を行った.このような制御問題に関してサンプル値系の通常のH2制御との関係を詳細に明らかにした後,最適制御器の設計問題が近似的な意味では線形行列不等式の求解を通して行えることも明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要として述べた通り,サンプル値系におけるL∞誘導ノルムに関する最適な制御器設計に関しては,従来手法を上回る能力を有する新規な手法を確立するに至っている.これは予定通りの十分な成果であるといえる.ただし,関連する性能解析問題においては区分的1次関数による近似を入力信号および核関数のいずれにおいても適用可能であることがすでに示されているのに対して,本設計手法においては入力信号の近似のみを扱っている.解析においては核関数を近似する手法の方がより有効であることが示唆されていることから,制御器設計においても核関数近似の適用の検討が重要と考えられる.この課題については現在取り組んでいるところである.
一方,外乱入力が属する空間を上記問題のようにL∞空間ではなくL2空間とした場合の関連研究については,アプローチにかなり異なる側面も生じるものの,やはり基本的な考え方である高速リフティングが有効に利用できることが明らかにされている.サンプル値系に関する従来のH2制御問題との関係も詳細に明らかにされており,やはり予定通りの成果が十分に得られているといえる.この問題に関する最適制御器設計は,離散化を通して離散時間系に対する制御器設計の問題に近似的に帰着される.ただし,後者の問題を効率よく解く方法は知られていなかった.本研究では,作用素論的アプローチという観点からやや逸れるものの,このアプローチが最終的に目指すところという観点からは避けることのできないこの離散時間系に対する問題に対しても取り組み,数値的求解が容易なものとして知られる線形行列不等式に基づく解法も明らかにしている.これも本研究全体の完成度を高める上で重要なものであり,この点に関しても十分な進捗であるといえる.
さらには,サンプル値系などのハンケルノルムの研究についても着実な成果が得られつつある.
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今後の研究の推進方策 |
入力および出力の関数空間をいずれもL∞として考える制御問題については,上で述べたひとつの課題,すなわち,最適制御器設計においても核関数近似を適用することの検討を除いて,計画当初において想定した議論が概ね行えた状況といえる.残るこの課題については本年度において検討を進め,なんらかの成果を得たいと考えている.
一方,入力空間をL∞ではなくL2としたとき(ただし出力空間はL∞のまま)の誘導ノルムに関する最適制御器設計の問題については,近似的な離散化を通して行列不等式の求解に帰着されることを明らかにしたことを述べた.ただし,その現時点での意味は,入力空間がL∞の場合の最適制御器設計法の近似的アプローチが持つ妥当性をもつもの,すなわち最適制御器への収束性を厳密に保証するものであるとはいえない.この点については,設計手法を変えることなく,議論の方を工夫することにより結果的には同様の保証が与えられるのではないかと考えられる.この点について本年度で検討したい.
また,入力空間をL2としたときの誘導ノルムに関する問題は,過去の入力から未来への出力の関係を作用素として表現するハンケル作用素の扱いとも密接に関係している.とくに,サンプル値系は入出力関係が周期時変であることに対応して,このハンケル作用素を実際にはいかにして厳密に定義するのが適切であるかという本質的な問題に答えることが重要となる.連続時間周期時変系に対するハンケル作用素の問題もあわせて考察し,この作用素のノルム,すなわちハンケルノルムの性質等を明らかにすることも本年度の重要な課題のひとつである.
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