研究課題/領域番号 |
15K06142
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
櫛田 大輔 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30372676)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | ロコモティブシンドローム / 疫学データ / 主成分分析 / ニューラルネットワーク / 診断モデル / Kinect |
研究実績の概要 |
今年度は,ロコモティブシンドローム診断システムの構築が主たる目的であった.昨年度に引き続き今年度も鳥取県日野郡日野町の住民を対象とした健診事業に参加し,歩行中の骨格情報および加速度関連情報について26項目のデータ収集を行った.また,これらデータとは別途,医師,理学療法士,保健師によって筋肉量,骨量,基礎代謝といった79項目の疫学データを同時に取得している. 本年度はこれら105項目について主成分分析を実施し,ロコモティブシンドロームの判定に寄与している項目の抽出を実施した.その結果,第1主成分には身体的な特徴に起因するデータが抽出され,第2主成分には歩行中の動的な特徴に起因するデータが抽出された.前者は主に疫学データであることから,本研究課題の目的の1つであるKinectを用いた非接触非拘束なデータ収集では取得できないものである.それに対し,第2主成分はKinectによってデータ収集が可能なものである.そこで,ロコモティブシンドロームの診断システムを構築するにあたり,第2主成分を用いてロコモティブシンドローム判定モデルをニューラルネットワークで構築することとした.ただし,第2主成分の中でも正の寄与度上位5つ,負の寄与度上位5つをモデル化対象データとし,あらかじめ取得した全データの平均値と標準偏差を用いて正規化することとした. K分割交差検証(K=4)の結果,97.8%の精度でロコモティブシンドロームの患者を選定することが可能であった.ただし,平均未検出割合6.8%であることからわずかながらも見逃しが発生していることを踏まえ,閾値設定の検討やモデル構築の際のクラスタリングの必要性があることが示唆された.また,結果の再現性については未確認であるため,来年度取得予定である同町住民データを用いて再現性の確認が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載の平成28年度研究計画については概ね全て実施できたと考える.得られた結果に応じた考察や追加の対策といった課題は残っているものの,新たなデータを平成29年度に取得する見込みであるため,それに合わせて実施することが効率良いと考えている. また,昨年度積み残していた課題であるゲート式歩行測定装置の複数台利用による長距離歩行測定については,実験フィールドである日野町の健診事業においてスペースの確保ができなかったことから実施に至っていない.ただ,現状の短距離歩行測定においても十分な精度でロコモティブシンドローム判断モデルを構築できていることから,本件の実施を必要とせずとも当初の目的の達成は可能であることが見込める.本件については,引き続き実験室レベルでの実現を試みる予定であり,実験フィールドの環境が整い次第実施できるよう進めていく.
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として,1)日野町の健診事業に参加して高齢者の歩行データを取得,2)構築したロコモティブシンドローム判断モデルを用いた再現性の検証,3)モデル構築に必要とした入力データが結果に及ぼす影響度を調査(暗黙知の抽出)を予定している.
1)は実験フィールドにおいて毎年実施している項目であり,滞りなく実施できる見通しである.2)は1)の実施に伴い取得されたデータを検証データとして,モデルの正当性およびモデル構築の再現性の確認を行うものである.これにより本年度実施内容を確実なものに仕上げることが可能となる.3)は交付申請書に記載の項目であり,ロコモティブシンドロームの診断に必要な項目の重要度を客観的に知ることで,医療従事者の暗黙知を抽出する試みである.入力データは10項目と少数であることから,全組み合わせ(組み合わせない)パターンを実施して判定精度の変化を調査することで,入力データの重要度および最良組み合わせを見出す予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果について学術論文投稿および国際会議での発表を予定していたが,研究成果が得られた時期が年度末に近かったことから,両予定を次年度に繰り越すこととした.また,実験フィールドのスペースの問題で実施できなかった実験がいくつかあり,その実験の補助者として雇用予定であったアルバイト代および被験者謝金について次年度に繰り越すこととなった.そのため,それらに関わる経費の剰余が生じることとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の研究成果は次年度の早い段階で学術論文および国際学会論文にまとめる予定でおり,今年度未使用額で負担する予定である.また,同様に実験に関わるアルバイト雇用および被験者謝金についても同様に今年度未使用額で負担予定である. 次年度請求額については,当初の予定通り次年度進捗に関する研究発表旅費および消耗品等の購入に当てる.上記にて予定通り予算執行を考えているが,複数施設での実験実施の可能性や据置き型として現場で常に実験実施する可能性もあることから,実験計画に応じて,適宜実験機材(消耗品)の購入に当てることも考えている.
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