最終年度(H30)は,カルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値を求めるの半正定値計画(SDP)問題の3つのバリエーションを考え,それらの間の関係を調べた.その過程で,より精度の高い推定方法(SDP問題)と,SDP問題が可解であるための,より簡単な必要条件とジェネリックな意味での十分条件が明らかとなった.具体的には,拡大可観測性行列の行数を決めるパラメータがシステムの次数と出力の数により決まるある値より大きければほとんどすべての場合同定可能となり,逆にSDP問題が可解ならば上記の条件は必要条件となることを示した.また,不可到達な確率系をもつ安定限界なシステムの同定に拡張可能であることも明らかとなった. 研究期間全体(H27--H30)を通しては,まず,2つの特異部分空間の間の開き(gap)に基づく推定誤差の公式を導出し,それを用いてPO-MOESP法におけるシステム行列の誤差解析や周波数領域での誤差解析を行った.これによりPO-MOESP法における推定値は一致推定値であることが明確となった.研究の初期では,システム行列の推定誤差を計算するために必要なカルマンゲインとイノベーション過程の共分散行列の一致推定値は得られていなかったが,H28年度には推定問題をBMI問題として定式化し,H29年度にはSDP問題として定式化できることがわかり,H30年度には,データをより有効に使うSDP問題を得ることができた. これによって,PO-MOESP法におけるシステム行列の推定値の共分散行列を一致推定値から求めることができるようになり,初期の目的である部分空間のgapに基づく部分空間同定法の分散解析手法の確立を達成したと言える.
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